アダムはいなかった 「喘鳴」1

 どこまでも遠いゴールまでの道を、私はずっと走っている。

 途中でひどく息が切れ、へたり込んだところを叱られた。隣を走ってくれていた、大切だったはずの誰かはとうにいない。それでも叱られるのが嫌で、またずっと全力で走る。

 周りは言うのだ。今までは走れていただろうと。そして今も、走れているのだからできるだろうと。けれどもう、足は棒だし息は苦しい。その上ひどい目眩もあって、喉だってカラカラに渇いている。

 どうすればよかったのか、未だによく分からないのだ。

 だって全力で走らなければ、ちゃんと走れと怒られる。それで疲れ果てて、立ち止まればサボるなと怒られる。どうして潰れて再起不能になるまで、頑張ったねと言ってもらえないのだろう。

 もしもこのまま走り続けて、いつか転んで——そのまま走れなくなったとするなら。頑張ったんだね、疲れてたんだねと優しくしてもらえる。そんな幻を目の前にぶら下げられたまま、まだ走れるから、走るしかないのだ。

 フォームなんてもうめちゃくちゃだ。それでも全力で走り続けることが、何よりも大事らしい。どんな形でもいい、どんな姿でもいいと飛んでくるそれは、あるいは応援のつもりで発せられているのだろうか?

 ……意味が分からない。

 そこそこ遠くてよく見えないが、隣に位置するレーンを見やる。あちらでは手を引いてもらって、楽しそうに走る人がいた。それをいいなと思うなど、相手のことが何も分かっていないと叱られたこともある。

 聞けばあのレーンは、果てが崖になっていて落ちるばかりなのだと。楽しそうに見えるのは、彼らが全てを諦めているからだと。そう言われるとひどく、申し訳ない気持ちになるけれど——ならば今、私が生きているこの人生は、いったいなんのためにある?

  • 0
  • 0
  • 0

静海

小説を書くこととゲームで遊ぶことが趣味です。ファンタジーと悲恋と、人の姿をした人ではないものが好き。 ノベルゲームやイラスト、簡単な動画作成など色々やってきました。小説やゲームについての記事を書いていこうと思います。

作者のページを見る

寄付について

「novalue」は、‟一人ひとりが自分らしく働ける社会”の実現を目指す、
就労継続支援B型事業所manabyCREATORSが運営するWebメディアです。

当メディアの運営は、活動に賛同してくださる寄付者様の協賛によって成り立っており、
広告記事の掲載先をお探しの企業様や寄付者様を随時、募集しております。

寄付についてのご案内