一歩、そしてまた一歩と歩みを進める。ガラス越しの足元に広がる、夜の街をただ踏みしめながら。
「銃も持たずに来たのか、それでよくそのような口が聞ける」
銃声。頬が切れてすぐ、何事もなかったかのように修復される。
「だって不要ですから。もう殺すとか殺されるとか、そういうのはたくさんです」
もう一度。今度は右脚を撃ち抜かれて、よろけたが転ぶわけにはいかない。
「……その不死性さえなければ、お前はもうとっくに死んでいるというのに?」
ダン、と眉間を撃ち抜かれた。一瞬の暗転、けれど目を閉じることはしない。
「はい、もちろん。自覚しています、今でもこの力は要らなかったと断言できる。
でも、仕方ないですね。これがなければ、ここには来られず泣いているばかりだっただろうから」
「狂気の沙汰だな、自覚しているか? 化け物だぞ、今のお前は」
「でしょうね。そこの最高神に、すっかり影響を受けてしまいました」
言う間にも、私はジェイドの前まで辿り着いている。足元のサイラスがまた、苦しげに私の名を呼んだ。
「ダメだ、来ちゃ……いけない」
おそらく無理にでも、私を逃がそうとしているのだろう。私の周りに白い光が、漂って収束しようとするが——
「聞けません」
私の拒絶に、それは儚く弾け飛ぶ。サイラスがまた、ジェイドに強く踏みつけられた。
「チッ……イヴ! この女をさっさと消し飛ばしてしまえ、『元よりこの女は、この世界に生まれてなどいない』!」
ジェイドの呼びかけに応え、ほんの一瞬「太陽」がその輝きを増す。けれどすぐ、ためらうように明滅して、沈黙する。
「な……おい、俺の言うことが聞けないのか! イヴ、お前はどうしてこんな時に……!」
『……でき、ない』
彼女の赤い瞳を想う。ああ、母さん。そこに、いるんですね。
「この……ッ! お前さえ、お前さえいなければ!」
そして私目がけて、飛んだ拳は残念ながら——あくまで非戦闘要員のそれで。
当然だ。今までイヴに汚れ仕事を押し付け続けたのだろう彼に、そんな力があるわけもない。
腰の入っていない一撃をしゃがんでかわし、全力で足払いをする。ジェイドが派手に床を転がった。