アダムはいなかった 「覚悟」2

 一歩、そしてまた一歩と歩みを進める。ガラス越しの足元に広がる、夜の街をただ踏みしめながら。

「銃も持たずに来たのか、それでよくそのような口が聞ける」

 銃声。頬が切れてすぐ、何事もなかったかのように修復される。

「だって不要ですから。もう殺すとか殺されるとか、そういうのはたくさんです」

 もう一度。今度は右脚を撃ち抜かれて、よろけたが転ぶわけにはいかない。

「……その不死性さえなければ、お前はもうとっくに死んでいるというのに?」

 ダン、と眉間を撃ち抜かれた。一瞬の暗転、けれど目を閉じることはしない。

「はい、もちろん。自覚しています、今でもこの力は要らなかったと断言できる。

 でも、仕方ないですね。これがなければ、ここには来られず泣いているばかりだっただろうから」

「狂気の沙汰だな、自覚しているか? 化け物だぞ、今のお前は」

「でしょうね。そこの最高神に、すっかり影響を受けてしまいました」

 言う間にも、私はジェイドの前まで辿り着いている。足元のサイラスがまた、苦しげに私の名を呼んだ。

「ダメだ、来ちゃ……いけない」

 おそらく無理にでも、私を逃がそうとしているのだろう。私の周りに白い光が、漂って収束しようとするが——

「聞けません」

 私の拒絶に、それは儚く弾け飛ぶ。サイラスがまた、ジェイドに強く踏みつけられた。

「チッ……イヴ! この女をさっさと消し飛ばしてしまえ、『元よりこの女は、この世界に生まれてなどいない』!」

 ジェイドの呼びかけに応え、ほんの一瞬「太陽」がその輝きを増す。けれどすぐ、ためらうように明滅して、沈黙する。

「な……おい、俺の言うことが聞けないのか! イヴ、お前はどうしてこんな時に……!」

『……でき、ない』

 彼女の赤い瞳を想う。ああ、母さん。そこに、いるんですね。

「この……ッ! お前さえ、お前さえいなければ!」

 そして私目がけて、飛んだ拳は残念ながら——あくまで非戦闘要員のそれで。

 当然だ。今までイヴに汚れ仕事を押し付け続けたのだろう彼に、そんな力があるわけもない。

 腰の入っていない一撃をしゃがんでかわし、全力で足払いをする。ジェイドが派手に床を転がった。

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静海

小説を書くこととゲームで遊ぶことが趣味です。ファンタジーと悲恋と、人の姿をした人ではないものが好き。 ノベルゲームやイラスト、簡単な動画作成など色々やってきました。小説やゲームについての記事を書いていこうと思います。

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