「……ふざけるなよ、お前。自分に都合が悪くなった途端、黙るばかりで罪を認めようともせず……そのくせ娘の生還すら喜べない。
なあ、聞いているのかジェイド。僕は今、お前にひどく腹を立ててる」
故に、サイラスのよく通る声は、静かな怒りはビリビリと空気を揺らすようで。
「……そんなことを、言われてもな。お前だって俺が、希空を散々痛めつけていた時……助けになんか来なかったじゃないか」
「いくら願い主のためとはいえ、僕がそう簡単に動けるような立場だと思う? 一度こっちに来てしまえば、それこそ神隠しか僕の永住かくらいの気持ちでいてもらわなきゃ」
……聞いてないぞ、不穏なワードがあった気がするけど聞いてないぞ。というかそもそも、これは私が聞いていい話なんだろうか……?
「く、はは……滑稽だな、アダム。いくらお前が、イヴに選ばれなかったからとはいえ……その娘に手を出すなど。同じなのは目の色くらいじゃないか、なあ」
「……はあ、僕は希空に手なんか出してないし……彼女をイヴの代わりだと思ったこともないんだけど。勝手に勝ち誇るのやめてくれない?」
「だがこいつは、お前に散々——」
「あーあーあー! 誤解です! あれはサイラスに不死にされたショックで泣いて逃げてただけです、私は何もされてないです!」
一瞬の間。サイラスの視線が痛い。
「……その、私が泣きながら外を走ってた理由を訊かれて……ごまかすために、その……キスされた、とか言ってしまってですね」
「ふ……あははは! 何それ! ヤケクソすぎるでしょ希空……!」
うるさい。それアレクにも言われましたよええ。
「ひー……! お腹痛い! 僕もそれ見たかった……!」
……そんな感じでしばし、サイラスが腹を抱えて笑うのを見届ける。どうしてくれるんだこの空気。
「はーおもしろ……だってさジェイド。だから別に、僕は希空をそういう扱いなんかしたことないよ」
「……そう、か。ならばもう、殺せ」
「やーだね! まだ君から聞けてない情報もあるし、そもそもイヴのためにならないからしないよ。
……で、だ。なんで今、イヴの名前を出したと思う? 全部正直に話してくれたらさ、イヴと話をする機会を作ってあげるから……教えておくれ」
本当なら、沈黙を貫きたいのだろう。だがイヴの名を出された以上は従うしかない——という表情で、ジェイドはひとつ息をついた。
「……あいつは、ひどく寂しがり屋だった……」
そして、まるでほろほろと取りこぼすように。ジェイドが語り始めたのは、いつかのイヴのことだろう。
「最初は、毎日雨ならいいのに、と呟いた俺の肩を……後ろからつついて、『叶えてあげる!』なんて言う妙なやつだった」