それきり静かに、涙を流し始めた彼に。もちろん同情の余地はないし、彼の言う通り許したくもない。だが……今のこの心境を、私はなんと表現すればいいんだろう。
……彼が深く、後悔していることだけははっきりと分かる。そして同時に、それだけイヴがジェイドを愛していたことも、また。
「……それならどうして、君は神を、太陽をあのように扱っていたんだい?」
「本当はずっと、お前のことを探していたんだ。イヴから散々、その存在だけは聞かされていたからな。
だってアダムは、俺たちの想像が及ぶ全ての願いを叶えられる。つまり殺してイヴに吸収させれば、イヴを元通りにできるかもしれないと思った。だから、詳細は伏せてイヴに願って……あいつを閉じ込めて、かつあの組織を作ったんだ」
……なるほど、「なぜイヴだったのか」の答えはこれか。つまりは全て、イヴのために成り立っていたと言っても過言ではないと。
「だが……アダムのことは何も分からない、つまり手当たり次第に殺すしかない。その過程で、どんどんあいつは力を得ていったが……お前に渡された、あの報告書で愕然とした」
ジェイドの視線がこちらを向いた。そういえば、アレクに言われて「最高神は人間の体液では死なず、砂になることもない」という事実だけ載せたが……逆にそれが、ピンポイントで確信を与えてしまったのか。
「元々こいつの正体に、勘付いてはいたが確証がなくてな……だが確定したと思えば、その力を取り込むことが不可能だとも知った。だから俺は、イヴにとある力を使う準備をしろと言った」
「と、いうと」
「……先ほどの、俺たちを取り込もうとした動きを忘れたか? それに言っただろう、あいつは寂しがり屋だとも。
俺との契約に基づいて、アダムが死んでしまう前に……全てを呑み込み同化しろと、以前あいつに言ったことがある。その時あいつは渋ったが……おそらくそれが、イヴの願望にのみ特化した状態で発動したんだろう。そうすれば二度と、家族が離れ離れにならずに済む、と」
……言っていることは理解できた。どうしてそうなるのか、もまあ、ある程度なら分かる。
だが——根本的に、大事な部分の認識が歪んだままじゃないかこいつは……!
「……分かってるんですか、下手をすれば方舟全土が呑まれてたんですよ」
「当たり前だろう、そうでもしなければあいつは蘇らないと……俺はそう、ずっと思っていたんだ……」
「それじゃあ私たちに掲げていた、組織の信条は」
「全て嘘だ、それらしい言葉を並べただけのな。
……俺は最終的に、イヴさえ復活させられればそれでよかった。だから邪魔されずに、殺しを遂行するには絶対の信仰対象になればいい。そう思ったんだ。
だからそれ以上の意味は何も、ない」
言い切った上で、ジェイドは乾いた笑みをこぼした。気力を全て失った、澱むばかりの目がこちらを見つめている。