アダムはいなかった 「再生」5

 ……まるで、いつかの私だった。生きる理由も意味もなく、ただうずくまって泣くばかりの生。自分の欠点から目をそらし、現状を変えてくれる「何か」が現れるのを待っている。

 私もまた、何かひとつでも違えていれば。こうなっていたのかもしれないと、震えすら走り目をそらす。

「……教えてくださり、ありがとうございます。
 ですがあなたを、私は理解することができません」

「だろうな、俺も理解されようとは思わない」

 重い沈黙に支配された部屋で、サイラスが渋い顔をする。

「うーん、溝が深いねほんと……とんだ夫婦喧嘩と親離れだよほんと。
 ……とはいえ約束は約束だ。少し待っていておくれ」

 言ってサイラスは、イヴへと歩み寄ろうとして。ジェイドの視線を感じたか、一度立ち止まり「言っておくけど」と声を上げた。

「いくら愛のためとはいえ、過ぎた行動はエゴの押し付けだ。彼女がこうなった理由を、もう一度ちゃんと考えておくれよ」

 ……ジェイドはまた、重く黙り込んでいる。

「……と、いうわけで。イヴ、ちょっと失礼するね」

 高らかに、指を鳴らす音が響く。その途端、景色がいつかのイヴの寝室へと切り替わり——何かの塊にしか見えなかった彼女は、私やジェイドの見慣れた姿に変化した。

「ここ、って!」

「仕方ないから……最期の時くらい、見慣れた家で家族に囲まれてさ。『崩れかけた何か』じゃなくて、昔の姿で過ごさせてあげるよ。
 ただし、この術はヒトや神を対象には使えない。つまり彼女は、もうそのどちらでもないってことで……その意味を、しっかり噛み締めるんだよ」

 ジェイドはまた、何も答えない。否、答えられないのだろう。代わりに私が礼を告げれば、サイラスは笑みを消して立ち上がった。

 ……ベッドに横たわったイヴの瞼が開かれ、赤い瞳が私たちを見上げる。どうやら意識を、取り戻したらしい。

「イヴ……!」

「母さん!」

「……あ、れ……? わたし、体はなくなったはずじゃ」

「そこらへんの監修は僕だよ、久しぶりだねイヴ。多分十五分もしないうちに崩れるから、お別れは早めに済ませといてね」

 その言葉だけで、全てを理解したのだろう。起き上がり、泣きそうな顔をしながらも——笑うイヴは、相変わらず目が眩むほど美しい。

「ありがとう、アダム。そして迷惑をかけたみたい、だね……ごめんね」

「いいよ、君がお転婆なのは昔からだ。
 ……それじゃあ僕は、ちょっと離れとくかな。家族水入らずの時間に、僕がいちゃ邪魔でしょ?」

「あ、だめだよアダム! あなたもここにいなさい!」

「ちょ、いてててて! 髪引っ張るのやめろっていっつも言ってるじゃん!」

 ……一見すれば、纏う色素が似ていることもあり……姉と弟のじゃれ合いのような、微笑ましい光景のようにも取れるけれど。ジェイドが少しむくれているのと、先ほどの会話を思うにそういうことなのだろう。

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静海

小説を書くこととゲームで遊ぶことが趣味です。ファンタジーと悲恋と、人の姿をした人ではないものが好き。 ノベルゲームやイラスト、簡単な動画作成など色々やってきました。小説やゲームについての記事を書いていこうと思います。

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