「……仕方ないな、それじゃあ僕も同席するよ。
できるだけ耳は塞いでおくから……ってひっぺがすのやめてよイヴ!」
「いいから! 言っとくけど目を閉じるのも禁止! ちゃんと一緒に話したいの!」
「あはは……か、母さん。ジェイドが拗ねちゃうからそこまでにしとこ……?」
「あ、そうだね。ごめんねジェイド、でも私怒ってるから」
「……ああ、そうだろうな。近いうちに死んで、詫びる」
「あれ……あなたそういう人だったっけ? 何を犠牲にしてでも、わたしを取り戻してみせるとか言ってたのに」
項垂れるジェイドの手を、そっとイヴが包む。押し黙る彼の頬をそのまま、白く華奢な手が包んだ。
「……わたしはね。あなたを割と……どうしようもなくて愛が重くて、そのくせ自分勝手で寝相が悪い人間だと思ってるんだけど」
「な……そこまで言うことはないだろう!」
「あ、ようやくこっちを見た。でも事実だよ、全部全部。
あなたがわたしのために頑張ってくれたことは、すごく嬉しいけど……そのせいでどれだけのひとや、わたしの仲間が悲しい思いをしたか、あなたはきっと推し量れないでしょう。
だってずっと、あなたはわたししか見ていなかったから」
……正座のまま、握り固められていたジェイドの手の甲に。その時次々と落ちる雫があったことは、見ないふりをしてあげることにした。
「……でもね。頭の中に、色んな力と記憶が流れ込んできて……何も分からなくなりそうだ、って思った時。いつもあなたの声に、わたしは導かれていた。もちろんそれで、色々とひどいことをさせられたのも……うっすら覚えてはいるけど、仕方ないからそれについてだけは、不問にしてあげる。
……どうやら『わたし』、危うくあなたたちを手にかけそうになったみたいだしね」
でもね、と。厳しい顔になったイヴは、ジェイドから手を離し——今度は私を、強く強く抱きしめた。
「ああもう希空、ずっと可愛い可愛いって思ってたけど……今度はきれいになっていく。それでもあなたはいつまでも、わたしの可愛い娘だからね。
今までジェイドに、たくさんつらい思いをさせられたでしょう。それに関してはね、わたし絶対にジェイドを許してあげないから安心して。わたしの都合で連れてきたのに、わたしたちの都合でずっと理不尽に苦しめて……ごめんね、本当に……」
「……かあ、さん……」
ずっとここにいて、とは言えない。だって不可能だ。だからせめてと、抱きしめ返して「大好きだよ」と。情けなく声が震えるけれど、ジェイドのように泣きたくはなかったから。
「……わたしも。わたしもずっと、ずうっと大好きだよ、希空」
名残惜しくも抱擁を解く。そうしてイヴは、再びジェイドに向き直った。
「と、いうわけで。ジェイド、あなたはこの先……寿命以外で死ぬことを禁止とします。破ったら離婚ね」
「……そん、な」
「もう……希空がずっと、死にたがってたのはあなたも知ってたでしょ? そんなこの子が、もがきながらも生きる道を選んだんだから。あなたばっかり、逃げとして死ぬのは許さないから。
……でも、そんなどうしようもないあなたを……結局見捨てられなかったわたしも同罪。だから先に、地獄で待ってます」
それを最後に、イヴはサイラスの方を向き。くしゃりと笑みを崩して、「さよならだね」と。