「……まったく、君たちの家庭の事情に巻き込まれた僕の身にもなっておくれよ。
それで、もうそろそろ十五分経つけど?」
「だから最後に、あなたに話しかけてるんだけど。ジェイドとはまた、全然違う意味でだけど……あなただって、わたしの特別なんだから」
「そ。僕には希空がいるから別にいいけどさ。あんまり周りを魅了して歩かないでよ、泣かなくてもいいやつを山ほど泣かせた自覚はあるだろ?
あと、外に降ってる雨についてとか、方舟の管理者権限とか話し合わなくていいのかい。かなり大事なことだと思うんだけど」
言われてイヴは、「あ!」と声を上げる。そうして慌てて、私の手をぎゅっと握り。
「この方舟の全ての権限を、希空。あなたに完全譲渡します。この先はあなたの一存で、この方舟は管理されるっていうのと……そうだね、雨。今はもう、『ここ』にはわたしひとりだし……今まで降った分もなんとか、してみる」
指先で自分の頭を示してから、深く呼吸をして——「えい!」と何やら、イヴがどこかに念を飛ばす。
……これで、方舟の外も晴れ渡るのだろうか。皆が夢見た太陽が、ようやく……?
「よし、多分これで大丈夫。そのうちいい感じになるよ、外に出るのも多分大丈夫!」
「というかそもそも、なんで雨が降ってたの……?」
「……おそらくは、俺のせいだろう。
元々『ずっと雨が降っていてほしい』と俺が願ったから、イヴが現れたわけで……それが『イヴと共に在りたい』に変化したから。イヴが死んだことにより、願いを叶えられなくなって……ずっと、暴走状態と言えばそうだったんだろうな」
「なるほど、分かりやすい説明ありがとう。あとは何か……ああ、そうだ。僕がジェイドと交わした『契約』、なんでかなくなってるけど?」
「なんの話をしてるのか、ちょっと分からないかな。なんのことだろうね?
あとはわたしが取り上げちゃった力は、面倒だから全部アダムに返したけど……後のことはまあ、希空と相談してから決めてね。それだけ」
朗らかに告げて、笑うイヴへと「……ああもう、これだから君は……」とサイラスは頭を抱える。最後まで勝てなかったよ、と呟いた声は、おそらく私以外には聞こえなかったのだろう。
「ならもういいかな、今までお疲れさま。色々大変だったけど……ま、僕は寛大だから全部許してあげるよ。
……さようなら、イヴ。好きだったよ」
「うん、さようならアダム。そして、ごめんなさい」
——そうして、音もなく。空気に溶けるようにして、イヴは永遠に。この世界からの完全なる消滅を、遂げた。