「……さて。それじゃあ希空、ここからは二人で話をしよう」
ジェイドを組織のビル前に送り返し、こちらを振り返ったサイラスは——イヴに言っていた通り、契約の証をきれいさっぱり消滅させていた。
「『用事』についてはもう、その効力が消滅したわけなんだけど……君のあの『願い』はまだ効果が残っていてね。だから君には、君の望むように取り消すなり僕を殺すなり、選んでほしいんだ」
「じゃあ取り下げます、生きていてくださいサイラス」
ぽひゅ、と間抜けな音がした。
「え、めちゃくちゃあっさり言うじゃん……?」
「そりゃそうです、まだやることがある以上……下手なことを言って、殺すわけにはいかないので」
疲労こそ残っているが、体は軽い。立ち上がり、サイラスへと歩み寄って——私は彼に、深く頭を下げる。
「すみませんでした」
「えっ」
「私も含め、私の家族が迷惑をかけました。本当に、あなたに対しては謝っても謝りきれません」
「い、いいんだよ別に! 僕が好きでやったことだし……何より、ジェイドに言われたことも当たってはいるんだ。そういう話を、今からしようと思ってたところだし。
……だから、希空。顔を上げておくれ」
「ですが」
「いいから!」
半ば強制的に、戻された姿勢のもとサイラスを見上げる。揺らぐことなく私を見つめる瞳が、困ったような嬉しさを隠しきれないような——そんな様相で細められた。
「希空、僕はね。君にずっと、隠していたことがもう一つあるんだ。
……実を言うと、君を助けたあの日にさ。君は僕を初めて目にしただろうけど、僕は君をその前から知ってる。なんなら、君がジェイドに虐待されていた頃から……君の存在を、ずっと知っていたんだ」
「そう……なんですか?」
「そうだよ。今までは話す勇気がなくて、ずっと黙ってたけど……今なら言える、気がするからさ。ちょっとだけ、僕の昔話に付き合っておくれ」
言ってその場に腰を下ろし、サイラスは「ほら」と自分の隣を叩いて示す。少しだけ離れて同じように座れば、無言でそばに引き寄せられた。