「……イヴからさ、娘ができたんだって話は聞いていたんだ。だから君の名前自体は知ってたけど……イヴが死んだって聞いて、君たちの様子を覗き見するまで、君が僕の願い主だとは知らなかった」
「そういうのって、一目見て分かるようなものなんですか?」
「もちろん。もっと言うなら、僕は他者の力を借りず……君の願いを叶えなきゃって、自分で肉体を得たからね。君という人間に惹かれる強さだけで言えば、他の神よりもずっと強いくらいだ」
でもね、とサイラスは眉を下げる。
「僕は当時、イヴのことがすごく好きだった。だから彼女に、天候制御程度でいいだろうに……過ぎた力を与えたことも否定しない。
だって、彼女に喜んでほしかった。強くジェイドに惹かれ、決して僕の方を見ない彼女だからこそ好きだった、なんて言ったら笑われちゃうかな。
でも僕は、そういう理由でアダムなんて名乗って……はは、ずっと己の無力を嘆いて生きてたんだ」
肩に置かれた彼の手が、少しだけ震えていた。片手を重ねてやり、私は彼の方に体重を預ける。
「……ずっと思ってた。最高神が、全ての願いの力がなんて言ったところでさ。力ばかりあるだけで、僕はずっと寂しいだけじゃないかって。自分はなんて、無力な存在なんだろうって。
だから……僕は『アダム』でなんかいたくなかった」
「だから私が、ポンコツ扱いしたときに喜んでたんですか」
「そう。初めて僕の無力さを、君が肯定してくれた。僕だってできないことはあるのに、今まで誰も……それを認めてはくれなかったから」
なるほどな、と頷く。だがそれと、私のところに来るタイミングにはなんの関係があるのだろう。
「……だって、最低なことにさ。僕たちが知り合ったあの日だって……アレクを追う、君を眺めていたから。君に向く銃口に気が付いて、庇うために飛び出していった。
そうじゃなかったら君が死んでいたとも言えるけど、そうなるまで何もしなかったとも言える。だから本当は、僕もジェイドを責められる立場じゃない」
……そういう、ことか。
「つまりジェイドに虐待されている私を、心の支えとしていたと」
「そう。だからそれに関しては、本当にごめんとしか言えない……っていうか、謝るべきは僕なんだ。本当ならもっと早く、君のところに行って止めるべきだったのに、僕は自分のためにそれをしなかった。
なんなら無力な君が可愛くて仕方なくて、いっそ楽しみにすらしてたさ。悪趣味、だろう」
「……否定はしません。ですがそれで今、あなたを嫌う理由にもなりませんから……そんなに縮こまらないでください」
確かにずっと、救いの手が欲しかった。どうして誰も、私のことを助けてくれないんだろうとも思っていた。その時に彼が来てくれたなら、幼い私がどれほど救われたかも分からない。
でも、大分遅くなったとはいえ。結局こうして、願いを叶えてもらったのだ。ならば私はそれでいいのだが、サイラスとしてはそうもいかないのか?