「あなたと一緒にいるのが、思っていた以上に楽しくて心地よかったので。
……だからまあ、あなたが寂しいと思うなら。一緒に死ぬのではなく、一緒に生きてやってもいいかな、と思ったんです。まあ別に、あなたのことを愛しているからとかではないんですけど」
「最後の一言いらないでしょ絶対!」
「とは言われても、父のこともありますし。あなたが早々に来てくれていたら、あるいは好きになってたでしょうけど……ねえ?」
「うう……十年前の僕のばかあ……」
泣き真似するなよ……
「でも、いいのかい……? 僕以外にも、この世界には色んなひとがいるだろうに」
「……言いたいことは分かります。私がいつか他の人間を好きになったら、恥も外聞もなく泣くぞっていう意味ですよね?
そこはいずれ、好きにさせてみせるとか……よそ見させるつもりはない、とか言っておいた方がお得だと思いますよ」
……彼にしては珍しく、リアクションまで数秒の間があった。
「いい、の?」
「いいのも何も、私は私一人だと不変ですよ。あなたがどうこうって話です、ただし私は手強いですよ。それでもいいなら、あなたが満足するまでは一緒にいてあげます」
「それってもう、好きってことにしちゃダメかい……?」
「ラブとライクの違い、もしかしてご存じない……?」
言えば赤い頬のまま、「もー!」とくしゃくしゃの顔をする。思わずくつくつ笑っていれば、サイラスは唐突に真剣な顔になった。
「……言っとくけど。前にわざと聞かせたようにさ、僕の愛情はすっごく重たいんだから。
受け止めきれないですーとか言われても、逃がしてあげられないからね」
「いいですよ、望むところです。見事私から『愛してる』って言わせることに成功したら、神隠しでもなんでもどうぞ」
「言ったね! それ言われちゃったら僕も張り切っちゃうもんね、絶対言わせてみせるから!」
言ってすぐ、彼は私を正面から抱きしめた。
「……ありがとう、希空。こんな奴のこと、見放さないでいてくれて」
「私も大概ですけど、あなたのその自己肯定感の低さもどうにかしたいですね。
……とはいえ私こそ、ありがとうございます。あなたがいなければきっと、事件解決どころの話じゃありませんでしたから」
抱きしめ返して背を撫でてやる。それだけでまた、「好きだ」と言うものだからつい剥がしかけたが……まあ、今だけは付き合ってやるか。
「これからもずっと、そばにいてもらえるように頑張るよ」
「じゃあ私は、愛想を尽かさないようにするのを頑張ろうかな……なんて、冗談ですよ冗談。すみません、言いすぎましたね」
「うう、希空の冗談怖すぎる……」
心弱すぎるだろ。だがまあこれで、残る問題はあと一つだ。微かに震えるサイラスから身を離し、伸びをしながら立ち上がった。