「少し、頼まれてくれませんか。やり残したことがあと一つ、残っているので」
「太陽のことかい?」
「そういうことです。
……兄さんとも約束しましたし、全部解決してから休みたいんです。そりゃへろへろに疲れてますし、油断するほど寝そうなくらいには眠いんですけど……せめて夜が明ける前に」
「……なんで、夜が明ける前に?」
「そりゃ、朝になっても明るくならないって絶望する人が出ないようにですよ」
言いながら、確認のために通信端末を取り出す。サイラスの目が激しく泳いでいた。
「……もう朝七時じゃないですか!」
慌てて戻った自宅は、当たり前と言えば当たり前だが——いっそ泣きたくなるほどに、いつもの姿のままだった。
テーブルの上に置きっ放しだった、愛用の銃を手に取る。アレクの声がないだけで、こんなにもこの家は静かだっただろうか。
……今となってはとても、それらは大切で眩しい思い出だが……感傷に浸っている場合ではないこともまた、一応理解していた。
あと一発分だけ、弾が残っている。不足ではない、というかぴったり使い切れるのだからちょうどいいだろう。全て終われば処分しようと、以前から決めていたこともあり——最後の大仕事を任せるには最適のものだろう。
腰のホルスターに収めた重みを噛み締めていれば、何か巨大なものを抱えたサイラスが戻ってきた。
「……あれ、それって随分前に買った……」
「そう、あのオブジェのうちの一つだよ。本当はコレクションにしたかったんだけど、イヴがいない以上ワープポイントがないとね」
……ねじれた木のようなそれを見つめる。まあ確かに、ある程度の大きさがあり、かつ奇抜であることは重要だろう。だってそうでもなければ、探し出すのも大変だろうから……というのはまあ、分かるは分かるのだが。
「……ちょっと、いやかなり……奇抜すぎませんかね……」
「え? 僕はいいデザインだと思うよ。特にこの、ショッキングピンクの枝とか最高だと思う」
少なくとも私の感性からしたら、どうしてその色なのか分からなくて不気味だとは言えない。でもそういえば、いつかどこかで「高位の天使ほど、人間の美的センスからは離れた姿で描かれる」とか聞いたことがあるな……
「あれ、どうしたの? 顔にゴミでもついてる?」
「いえ……サイラスって、本来の姿とかあるのかな、と」
「どうしたのさ急に。見せてもいいよ?」
「……遠慮しておきます。世の中、知らないことがいいこともありますもんね」
「えっ何、怖いよ希空! ちょっとー!」