……そんなこんなで各階層に、ワープポイントの設置を済ませ。改めて通信端末に目を通せば、あれからまた三十分ほどが経過していた。
「でも、いいのかい希空? その銃って色々、君にとってはトラウマものじゃ」
「私としても、もう使うつもりはなかったんですけどね。方舟はイヴの創造物ですし、血で殴るのが一番早いかなあと」
「……吹っ切れたねえ希空……僕は嬉しいよ……」
「誰目線なんですかそれ……」
ほんの少し前まで、「太陽」があった台座の上。狙う位置を細かく調整しながら、ふとサイラスに目をやる。
「……どうしたんですか、サイラス」
なぜか彼が、寂しそうな顔でこちらを見ていた。台座から降り、歩み寄って手を握ればぽつり、と何かを呟いている。
「……聞こえないです。もう少し大きく」
「うう……僕もさ、希空に敬語じゃなくて普通に話してほしいなあって……」
「あ、すみません。敬語が癖になってまして……改めて言われない限りは、ずっとそうするようにしてました。
……よし、じゃあこうかな。たまにうっかり戻るかもしれないけど、その時は言ってくれれば」
「やった、ありがとう希空! 嬉しいなあ……」
「大袈裟だって。それじゃあサイラス、始める前に外の様子の確認お願い。イヴもああ言ってたし、多分大丈夫だろうけど……一応ね、水がどばっと入ってきましたとか笑えないから」
「分かった!」
一瞬にして、サイラスの姿が消える。いつ見てもとんでもない力だよなあ、と息をついて、私は街を見下ろした。
……やはり、未だに「外」が明るくならないことを不審に思っているのだろう。豆粒ほどの大きさだが、人がぞろぞろと現れ始めている。
そして皆、上を見ては何か言っているのだろう。その中にぽつんと、翡翠の髪をした男を見つける。
「ただいま、ちゃんと晴れてたよ。水もしっかり引いてるから、やるとしたら今だろうね」
「……ねえ、サイラス」
「うん?」
「幸せって……いったいなんなんでしょうね」
込められた弾丸を確認する。もう一度上を見て、撃つべき場所を見定めて。再度彼に向き直れば、「むずかしいこと、言うね」と。
「……ですよね。私にも分からないです」
一歩、彼へと歩み寄る。
「でもきっと、僕たちがしようとしてることは……その幸せとやらに、大分貢献できるんじゃないかな」
彼もまた、私へと歩み寄り。太陽の間の中央に、二人並んで天井を見上げる。