アダムはいなかった 「願い」7

「そうだと、いいんだけどね。
 ……あ、そうだ。サイラス、この弾丸ひとつじゃちょっと心配だから……ちょっと力、貸してほしいな」

「ぼ、僕は便利な力発生器とかじゃないもん」

「もんって……まあいいや、それじゃ言い方を変えるよ。なんて言えばいいかな……あ、そうだ。
 ……私一人じゃ、さすがにできそうもないからさ。『助けて』くれる?」

 言葉と共に、差し伸べた手を取り。「いつから気付いてたのさ」と、サイラスは泣き笑いを浮かべた。

「割と最近かな、ひらめきってすごいね。
 ……さて、それじゃあ始めようか。みんなが待ってるからね」

「うわ、なんか軽くあしらわれた気がする!
 ……でもまあ、仕方ないな。『助けて』あげるよ、それが君の願いとあらば」

 重ねた手を握り込んで、私は真上に銃を向ける。

「天井が落ちてきたら危ないから、上に向けて吹っ飛ばすくらいの勢いでお願いね」

「了解。それじゃあやろうか、準備は?」

「もうできてるよ、やっちゃおうか」

 引き金に指をかける。隣でサイラスが笑っていた。

「ねえ希空、この先君は外に出るのかい?」

「うん。なんなら旅がしたいって、アレクと話してたくらいだし……一緒にさ、色んなところを見て回りたいな」

「もちろんいいよ、君のためならなんだって」

 まったくこいつは、私に甘すぎやしないだろうか。でも今こうして、私が笑顔でいられるのはきっと彼のお陰だ。

 ……目を閉じる。流れ込んでくる力と共に、今まで流れた涙を吹き飛ばすくらいの気持ちで。深く息を吸って、静かに目を開けた。

 そして——轟音が、響く。

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静海

小説を書くこととゲームで遊ぶことが趣味です。ファンタジーと悲恋と、人の姿をした人ではないものが好き。 ノベルゲームやイラスト、簡単な動画作成など色々やってきました。小説やゲームについての記事を書いていこうと思います。

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