……イヴから自死を禁じられ、項垂れたままの俺の周りで。方舟が暗いままだと、助けを求める者を力無く振り払った。
途端泣き崩れる者や、激怒する者などリアクションは様々だ。だがもうそんなことに構っていられる余裕など、俺には残っていなかった。
力が出ない。腹が減り、喉も渇いているはずなのに、それらが欲しいとすら思えない。寿命以外で死ぬことを禁ずる、とは言われたものの、食欲が消え失せている以上俺もそう長くはないだろう。
……だが。
遠くで銃声のような音が、聞こえたような気がして。顔を上げるも、辺りの景色は変わらない。
大方どこかの誰かが、俺と同じように世を儚んだのだろう。だってもう、太陽は戻ることはない。
……いつの間にか懐に戻っていた、己の銃を思い出す。彼女を殺めてしまって以降、ずっとずっと……どうしようもない自己嫌悪が止まらず。銃弾もまた、自分の血を込めることなく使っていたが。
結局それは、他の神を殺す役を希空に押し付けてばかりの、情けない俺の象徴だった。
……ひっそり取り出したそれは、絶望する周りには見えていないらしい。確実に死ぬためには確か、こめかみに当てるのではなく銃口を咥えるんだったか、と。
イヴに申し訳なく思いながらも、実行しようとした手が止まる。どこから広がったかも分からない、泣き声とは違うざわめきが満ちていた。
そして——「それ」にいち早く気付いたのは、俺の目の前、母の手を引く少年だった。
「……あ、あれ……! あの青いの、なあに……?」
天井を指差して言う、その理由が分からない。だってこの方舟に空はない。あるのはただ、今は一面の暗闇だけで——と。
のろのろと顔を上げた俺の、顔に。その時差したものが、日光であると。気づいた瞬間、涙が頬を伝っていた。
「ま、まぶしい! なんだこれ、今までとは全然違う……! 母さん、これおかしいよ!」
ああ、そうか。この方舟で生まれたならば、本物の空を知らないのも頷ける。じっと見ちゃいけないよ、と父、あるいは母に庇われながらも、無垢な彼らは太陽に手を伸ばして。
ああ……これが。いつか俺が、取り戻したかったはずの……共に彼女と見たかった、はずの。
銃が落ちた。視界がひどく滲んで、空の青色以外何も見えなくなる。
涙は止まりそうにない。だってもう俺の隣どころか、この世界にイヴはいないのだ。それでも誰が、この空を取り戻したのかと問われたなら……答えはただ、一つだった。