風が吹く。旅のための準備を整えた後、私とサイラスは出発前に——方舟各地を巡ることにした。
「ん? 何観てたんだい希空、緊急ニュース?」
その準備過程で、ふと通信端末を開いた時。目に飛び込んできた映像に、私は目を見開いて固まった。
「あ……これって」
「あの時準備した動画……だよね……」
どうやら事件のごたごたで、件の動画ファイルを入れた記録媒体を落としてきたらしいと気付いたのは数日前。どこにやったものかと探し続けていたが、そうか組織の人に拾われていたか、と。
渋い顔をする私とは裏腹に、「でもジェイド、これについて認めてるじゃないか」とサイラスは上機嫌だ。加えて組織に届け出ていない銃で、人を撃ったとも供述しているとキャスターは言った。
「うん、きちんと反省してるようで何より。僕たちが頑張った甲斐があるってもんだ」
「でも……そういえばどうして、ジェイドが私を撃ったのか分からなかったな」
「それについてはほら、ここに書かれてる。
……『恋人を奪われたと思い込んで撃った。だが逆恨みだと気付いた』ってさ」
その言い方だと、なんだかニュアンスが違うような……まあ確かに、そうと言えばそうなのだが。
「あはは、言葉って難しいね。おもしろ」
「……あ、サイラス見て。今まで殺された神についても、ちゃんと尊厳回復が行われるって」
「え? ほんと? やるなあ」
二人で覗き込んだ画面に、映るのはジェイドの雑用で運んだ「あの」リストだ。どうやら誰か、事情を深く知る者が最後のページに記述を追加していた、などと言われているが……
「……これ、母さんの字だ」
「へえ、イヴってばそこまで気が回るとはね……実際君のことも、どこかでひっそり助けてたんじゃないかな」
「うん、そうだったらいいな……」
そしてニュースは、深く頭を下げたジェイドの会見に切り替わる。こうしてみると少し、彼も老け込んだような気がするな、と。
どこかしみじみ聞いていれば、ジェイドは世界の復興支援をすること、そしてそのための機関が完成し次第、然るべき期間服役することなどを延べていた。