「すまなかった。これで許されるとは思っていないが……どうか、謝らせてほしい」
「……だってさ。どうしようね、希空」
「どうするも何も……あなたの誠意は、確かに見せてもらいましたから。また何か、よからぬことを企まない限りは何も」
「……言っておくけど、僕は助け舟とか出してあげないよ。言いたいことがあるのなら、ちゃんと言うべきだと思うなあ」
言われて少し、ジェイドは黙り込んでいたが——やがて意を決したように、口を開く。
「……お前たちのことが、ずっと憎かった」
「はい」
「だが、周りにも言った通りそれは逆恨みだ。実際死にかけた俺のことも、サイラスは助け出してくれたし……何より俺の命を奪うことなく、イヴに別れも告げさせてくれた」
「うん、だってイヴに泣かれるの嫌だったからね」
「……希空。今まで散々、お前の心を傷つけて……その上殺しをほぼ全て、お前に押し付けていたこと、本当にすまなかった」
んー、とサイラスが唇を尖らせる。惜しいんだよなあ、とどこかとぼけたように、私の方に視線を向けて。
「そうですね。あなたが言いたいのも言われたいのも、きっとそれじゃないと思いますけど」
「ぐ……だが、どう言えばいいか分からない、んだ。
……すまない、教えてくれ。この不甲斐ない俺に、どうか」
「……あのね、『父さん』。ずっと思ってたけど、父さんちょっと真面目すぎるんだよ」
慌てたように、ジェイドが顔を上げた。久しぶりに口にしたその呼称を、むず痒い気持ちで噛み締めながら言葉を選んでいく。
「私ね、父さんがつらくて悲しくて、それでも頑張らなきゃって思ってたのは知ってる。だから私に、家を残してくれたんだろうなとも今では思う。
……でもさ、そうじゃないんだよ。もちろん住む場所がなくなるのはつらいけどさ、私……母さんはもちろん、父さんといられなくなる方がずっとつらかった。いくら貧しくてもさ、父さんとまたご飯が食べたかった」
……だからこれは、死ぬまで口にすることはないと思っていた本音だった。
声が震える。少しだけ、目尻に涙がにじんだ。サイラスが私の手を、そっと握ってそっぽを向いた。
「だから……謝るなら、今の私じゃなくて昔の私に謝って。傷つけてごめんねって。抱きしめてあげて、頭を撫でてあげて。
……それだけずっと、つらかったんだよ。父さんも母さんも一気に、いなくなっちゃった『私』からしたらさ」
「……ッ、希空……!」
だから。手を広げ、けれど抱きしめていいのか分からないのか、おろおろするジェイドに「そういうところだよ」と。サイラスが告げ、手を離したのを合図にして。
「……すまなかった。つらかったな、寂しかったな。怒ってごめん、俺が悪かった……!」
私を抱きしめ、ジェイドがぎこちなく頭を撫でる。涙をこらえ切ることは、さすがにできそうもなかった。
「……ッ、父さんのばか。ずっとずっと、私……何回も、何回も! いつか優しい父さんに戻ってくれるかもしれないって、がんばってがんばって……ずっと、がんばったのに」
「ああ、そうだな……そう、だったな。それを無視し続けたのは俺だ、他の誰でもない……
ごめんな、ごめんな……希空、ごめん、な……」
そうしてしばし、私の泣き声だけが空に響き。太陽が少し傾くまで、私たちは抱きしめ合って泣き続けた。