寝台特急「北斗星」は、ここがすごかった!

▶さあ、扉を開けてみましょう

目の前の扉を開けてみてください。

はたして、そこは一流レストランでした。

テーブルの上には白いテーブルクロスが敷かれ、並べられているたくさんのナイフとフォーク。そして卓上のランプシェードの優しい光がその上に落ちています。落ち着いた雰囲気の中、26席のテーブルはすでに多くのお客さんでうまっていました。大きな窓の外には夜景。外の世界とは別世界のようです。

「お待ちしておりました」

席に着くと、ウェイターさんが赤ワインを運んできてくれました。

グラスに注がれたそれをひとくち口に含むと、芳醇な味わいが口の中に広がります。

ワインを楽しんでいると、いよいよ料理が運ばれてきました。

オードブルはホタテとカニのサラダ

魚料理・ヒラメの湯葉包み蒸し

肉料理・牛フィレ肉のソテー

パンとバター…

どれも選び抜かれた食材と、一流シェフにより調理されたフランス料理のフルコースです。デザートにアイスクリームとフルーツ、コーヒーまで付いてあなたの舌もおなかも大満足。ワインの酔いも程よく回り、最高の気分で席を立つあなた。

そこに突然アナウンスが流れました。

「まもなく郡山、郡山に到着です。」

流れていく車窓の風景。ゆっくりと列車は郡山駅に到着しました。

ここは札幌ゆき寝台特急・「北斗星」の車内。

そのなかの7号車、食堂車「グランシャリオ」でのひとときだったのです。

▶北斗星とは?

「北斗星」は1988年3月、青函トンネルの開通とともにデビューした「ブルートレイン(青い客車を使用した寝台列車)」です。 上野~札幌間を約16~17時間かけて走行しました。

時はまさにバブル景気の真っただ中。様々な個室寝台や食堂車など豪華な設備がテレビなどのメディアで大きく取り上げられ、またたく間に人気列車となりました。特にA寝台「ロイヤル」の乗車チケットは非常に入手困難で、上野~札幌の利用で4万円近くの高額でしたが、発売開始とともに売り切れるほどのプラチナチケットでした。鉄道ファンのあこがれの象徴だっただけでなく、「列車の旅そのものを楽しむ」という考え方を一般の人たちに定着させ、それまでの寝台列車のイメージを大きく変えた存在だったといえるでしょう。

次の項目で北斗星の豪華な設備を3点とりあげてみました。北斗星の何がすごかったか?具体的に見ていくことにしましょう。

▶北斗星のここがすごい①豪華な個室寝台

それまでの寝台列車は、開放式とよばれる通路との仕切りがない寝台をメインに編成されていました。そのほうが多くの乗客を運べるからです。しかし北斗星はあえて人数が限られる個室寝台を多く編成しました。その分サービスを向上させ、乗客に喜んでもらえる列車を目指したのです。それではどのような個室が連結されていたのか見てみましょう。

・ロイヤル

A寝台1人用。一列車につき最大でも8部屋しかありませんでした。個室内に専用のシャワーブース、トイレ、洗面台などが完備されており、サービス面でも、乗車時のウェルカムドリンクやモーニングコーヒー、朝刊の配達サービスまでありました。北斗星を象徴するような豪華個室で、チケット入手は大変難しくプラチナチケットとなっていました。

・ツインデラックス

A寝台2人用。上下2段式のシングルベッドとビデオ放送用モニター、小型デスクなどが設置されていました。下段のベッドを起こすとテーブル付のソファーに早変わり。この寝台も二人で利用する乗客には好評でした。

・デュエット

B寝台2人用。上段と下段の2タイプがあり、いずれも2つのシングルベッドが平行に配置されていました。A寝台に比べるとすこし狭いですが、料金は安めで、ツインデラックスよりも乗りやすい点が魅力でした。

・ソロ

B寝台1人用個室。シングルベッドで、デュエットと同様に上段と下段の2タイプがありました。ひとりで気兼ねなく北斗星の旅を味わえるとあって個人の旅行客に好評でした。

この他に通常の開放式B寝台も連結されており、上下二段式のシングルベッドが2組向かい合い、4名で1ブロックとなっていました。

▶北斗星のここがすごい②食堂車「グランシャリオ」

フランス語で北斗七星を意味する「グランシャリオ」と呼ばれる食堂車が連結されていました。JR東日本車とJR北海道車で雰囲気は大きく違っていたものの、グランシャリオの名称は同じです。時間帯によって提供されるメニューが変わり、夕食時、夜~深夜のパブタイム、朝食時の3パターンがありました。

・ディナー

事前予約制で、冒頭で描いたようなフランス料理コース(8000円前後)か、懐石御膳(5000円前後)のいずれかを選べました。また、A寝台の乗客は、懐石御膳に限りルームサービスを受けることができました。

・パブタイム

ディナータイム終了後に軽食類を提供していました。軽食とはいってもなかなか本格的で、ビーフシチューやハンバーグなどのセットメニュー・一品料理のほか、おつまみ・デザート・アルコール類などが提供されました。予約は不要で、乗客全員が利用可能でした。

・モーニング

和食と洋食から選べました。予約は不要。こちらも全乗客が利用可能でした。

価格は1600円でデザートやコーヒー・紅茶も付いたボリュームあるメニューでした。

▶北斗星のここがすごい③ロビーカー

6号車にはロビーカーが連結され、乗客たちの憩いの場として愛用されていました。列車によって全室タイプ・半室タイプとありましたが、ともにシャワー室が併設されていて、シャワー券を購入することで利用することができました。このシャワー設備があることも北斗星の特徴の一つだったといっていいでしょう。乗客にはうれしいサービスですよね。また自動販売機もあり、購入した飲み物をここで飲む方も多かったようです。

▶北斗星を走らせた機関車たち

北斗星自体は客車列車で、自力で走る動力を持ちませんでした。なので、かならず機関車にひかれて走っていました。ここではそんな北斗星の先頭に立ってけん引した機関車を見てみましょう。なお、機関車がつけていた北斗七星をあしらったヘッドマークも、秀逸なデザインなので注目してみて下さい。

・EF510形500番台電気機関車

2010年から、北斗星の走った区間のうちもっとも長い上野 – 青森間をけん引しました。もともとは貨物列車を引くために設計された機関車ですが、北斗星には特別に青くカラーリングされた車両が使われました。側面の流れ星が寝台列車にマッチしていますね。

・ED79形電気機関車

青函トンネル用に国鉄が最後に開発した電気機関車。北斗星では青森―函館間で使われました。

・DD51形ディーゼル機関車

函館 – 札幌間をけん引。ディーゼルエンジンを積んだこの機関車のうち、青にカラーリングされ、流星マークを付けた特別機が使われました。この区間は電化されていない区間もあることからディーゼル機関車が使われ、アップダウンがかなりあることもあって重連運転(機関車を2台連ねて客車を引っ張る)がおこなわれていました。

・EF81形電気機関車

1988年の運行開始から2010年まで、上野 – 青森間をけん引していました。東北本線の黒磯駅で、電流の直流と交流の切り替えがあるのですが、これを無停車で行う装置を取り付けた車両がつかわれていました。側面には流星マークが描かれており、「北斗星カラー」と呼ばれていました。2010年、EF510に置き換えられ順次引退していきました。

▶引退と北斗星のその後

運行開始から20年余り、同区間を走る寝台特急「カシオペア」の登場などもありましたが、北斗星は依然として高い人気を誇っていました。

一方でブルートレイン自体をめぐる状況は厳しく、とくに東京から九州方面へ向かう列車は次々に姿を消していきました。安価な航空路線や夜行バスの登場、そして新幹線網の整備におされていったのです。時代の変化と言わざるを得ませんでした。

存続を求める声は多かったものの、北斗星も姿を消すことが決まります。車体の老朽化、さらに北海道新幹線の開業にむけて青函トンネル内の工事の影響などもあり、2015年の3月をもって定期運行が終了。そして2016年8月、臨時列車も廃止され、惜しまれつつ27年間の運行は終わりました。またその時点をもって、国鉄時代から57年続いたブルートレインの歴史も幕を下ろしたのです。

しかし、その後北斗星は復活しました。といっても列車ではなく他の様々な形で、ですが。これから開業するものもふくめて3点ご紹介します。

・「Train Hostel 北斗星」

実車のパーツを内装に再利用した宿泊施設でJR総武線馬喰町(ばくろちょう)駅の近くにあります。内装などはほとんど現役時代の北斗星のまま、一泊2500円~とリーズナブルな値段で宿泊することができます。この値段で往年の雰囲気が楽しめるのは何ともうれしいですね。

・「ベーカリーレストラン グランシャリオ」

埼玉高速鉄道の東川口駅より、徒歩7分。ピュアヴィレッジなぐらの郷にあります。こちらはグランシャリオの台車と車体がそのままレストランとして使われていますので、内装も当時のままのランプを使用していたり、現役当時と変わらない趣を残しているのがうれしいですね。北斗星に乗る雰囲気をそのまま味わえるスポットとして人気です。

・「北斗星広場」のゲストハウス

こちらは2022年4月22日に北海道北斗市の市茂辺地地区でオープンする予定の、客車を活用した簡易宿泊所(ゲストハウス)です。クラウドファンディングによって集まった資金をもとに車両2両が整備されました。鉄道ファンの熱意が実った形ですね。地元の観光資源としても期待されていることでしょう。

列車としての運行は終了しましたが、北斗星は各地でその姿を残しています。北斗星に乗ることはもうできませんが、いまだに列車の雰囲気を味わいたいという人気の高さ、ファンの熱意を表しているといえるでしょう。

▶おわりに

北斗星やブルートレインに乗ることはもうできません。しかし、北斗星のような豪華列車は、のちに運行を始めた「ななつぼし」や「TRAIN SUITE四季島」といったクルージングトレインに受け継がれました。これは乗ること自体が旅の思い出になるという認識が一般のお客さんに受け入れられたということだと思います。旅行というのは目的地に着くところから始まるのではなく、その過程から楽しんでいいものなのです。北斗星はそういう新しい旅の価値観を私たちに提示してくれた存在だと自分は思います。

新幹線や航空機。確かに速く便利な交通機関です。寝台列車が16時間かかる道のりを、飛行機を使えば羽田から新千歳まで1時間半、料金も1万3000円程度です。しかしそれらは点と点をつないでいるだけのように感じられます。そこに冒頭で描いたような幸福感や満足感はあるでしょうか?時にはゆっくりと流れていく車窓を一人で、または気の合う友人たちと眺めながら、旅そのものを楽しんでみるという時間があってもいいのではないでしょうか?利便性だけでは、人は生きられないのですから。

おわり

一度は乗ってみたい!世界の絶景鉄道6選
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世界には、豪華な観光列車や、美しい山々や湖、滝を眺めることができる列車がたくさんあります。美しい景色を楽しめる絶景列車についてご紹介します。
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きんいろ旅程

きんいろ旅程(りょてい)と申します。おもに歴史や競馬などをテーマに、幅広く記事を執筆中。「どんな人にも読みやすい記事を書く」ことをモットーに、日々WebライティングやSEO、Wordpressなどを勉強中です。名前の由来は競走馬「ステイゴールド」から。Twitter→@kinniro_ryotei アイコン:畦ノつぶて様 @azeno_tsubute22

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