この二作品(宮部みゆき著)は正男と島崎という少年二人コンビの連作(ミステリ)である。最近通しで再読したため感想を掲載する。
今夜は眠れない
志村貴子版の表紙で読み直した。志村絵を基準にすると島崎がすごいかっこよく思えるが、それは正男とベストコンビだからなんだろうな~とバディ好きながら思う。事件解決までの正男とのやりとりは読んでいて和む。中学生男子の会話でありながら、下品さもなくとてもかわいらしい。
正男は志村版表紙のおでこを出したビジュアルと、古風な名前、終始振り回され続けるという立場から垢抜けないイメージがある。むしろ正男はザ・平凡的な少年。同じく宮部みゆき作品の少年主人公である亘と比べてもめっちゃ平凡。異世界にはいかないし。そんな正男が主人公になれたのは母親が相続しそうになった知人の遺産によるものとしか言いようがない。(ただ、親の事情に振り回されること自体は亘に通じるところが大きいよね)
だけどそれが作品の最大の肝である。平凡な親子が大金を手にしたらどうなるのか?執筆当時である1992年、固定電話が主流でハローページに個人の電話番号の記載がまだあった頃…本当恐ろしい。正男の母が病んでしまうのも分かる。息子の正男から語られる相続による波乱ぶりは見ていてハラハラする。
相続の件が判明する直前に、両親の間で離婚の話が出る。もし母の手に大金が実際に入っていたら離婚していたのでは?という記述が終盤にあるが、まさにその通りで、もし離婚が成立していたら、正男にとっては(いろいろな意味で)たまったものじゃないだろうと思う。
最終的に相続されそうになったお金は実はもうないという扱いになったが、本当に良かったと正共々思った。続編と比べてちゃんとそこは落としてくれるのでほっとした。
夢にも思わない
「今夜は眠れない」に続く、正男と島崎コンビのシリーズ完結作。第三作が読みたかった…。
工藤久美子(正男のいうクドウさん)の外見設定に軽度の斜視という記述があるのは、久美子の心の闇の暗喩ではないかと考えてしまう(そういう意図の場合、昨今では採用しにくい設定のような気もするが) 正男が久美子が犯した罪(公表されなかったもの)を知り、絶望する。正男は久美子が好きだったが、熱が冷めていくのが視聴者の自分にも感じられた。
久美子は清楚でありながら(志村貴子版の表紙ではおそらく長髪のほうの少女)「被害者意識を持つ狡い少女」として描かれている。まさに世の中の女性読者にとっては悪役のような存在だなとも考えてしまう。そういう悪役的なキャラ造形にしたことで、久美子が事件に加担したという説得力を持たせることができる。
正男はあの後島崎と仲良くできただろうか。自分はそう思いたい。失恋(というかは微妙だが)を癒してくれるのは同性の友人だろうと思うから。それに島崎は正男が傷つかないように精一杯尽くしてくれたのだ。最終的に正男が傷ついたのは真実を追求しすぎたから…だと考える。
前作は家族のもめ事、今作は結末的には失恋の話。正男が経験する辛い経験。それが少年が大人になっていくことなのかな…と同著者の「ブレイブ・ストーリー」を思い出しながら。
前作と同じく時代設定が携帯電話が普及していない時期となるため(1999年発行、前作が1992年発行)、最後の印象的なシーンは正男が公衆電話から久美子に電話をかけたシーンだった。公衆電話まで使ったというのに、正男にとってあの結末はつらいように思える。
