先生の定義 1

 日本には、パキスタン人が中古車販売やカレー屋を営み生活をしている。仙台にも、何十人かのパキスタン人が住んでいるみたいだ。パキスタン人達は世界で中古車販売のネットワークを持っており、世界中のありとあらゆる場所にある車は、パキスタン人が持ってきたと言ってよい程である。パキスタン人は、車のネットワークと共に、美味しいカレーを仙台にも持ってきた。カレーは、日本では国民食のようなものだが、日本のカレーとはまた別な味わいがあるのが、パキスタンのカレーだ。

 二月、太陽の日差しが差し込む、お昼頃のまだ肌寒い日だった。カレー好きの私は、五橋にある一軒のカレー屋に入ろうとしていた。以前から気になっていたお店ではあった。お店の前でチラシを配っている外国人は、眼光が鋭く強面でどこか近寄りがたい雰囲気がある。しかし、チラシを受け取ると笑顔で「アリガトウゴザイマス」と言うのが、どこか ユーモラスで、そのお店のカレーの味を確かめたい欲求に私はとらわれた。そして、私はそのお店に入った。

「イラッシャイマセー」 店内に響く外国人独特の、ニュアンスで発せられた発音の日本語に、私は心の中で笑ってしまいそうになると同時に、外国の人は、日本で頑張って生活しているのだと思うと応援したい気持ちにもなった。店内は、東洋系の音楽が流れていて、店内を見渡すと従業員は全員、外国人であった。私が今まで入ったカレー屋の経験上、恐らく彼らはインドやバングラデシュの人たちであろう。私が席に着くと、店員が、私の座ったテーブルにお冷を置いてくれた。日本の丁寧過ぎる対応ではなかったが、私にはその対応が心地よかった。メニューを見ると、もちろんカレーだけだ。ナンはメニューの写真を見るとずいぶんデカかった。こんなデカイの食べられるかな、と思った。再度、メニューを見るとラムカレーが美味しそうだと思ったので、 それを頼む事にした。

 私は店内を見渡して、肌が浅黒い外国人に声を掛けた。

「すみません。ラムカレーください」

「ラムカレーデスネ。カラサハ、ドウスル?一カラ五マデアルヨ?」 日本に来てまだ、間もないのだと思わせる日本語だった。一から五というのは、辛さの 度合いを示すものと思われた。

「二でお願いします」 私は、甘口のカレーが好きだが、たまにピリっとした辛味のあるものも食べたくなる。本当は、一にしたい気持ちがあったが、二に挑戦する事にした。

「ニデスネ、チョットマッテネ」 そう言い終わると、出身の言語で大声を出してオーダーを言うのだった。私は、外国人 が営んでいるカレー屋のよくある光景に異国情緒を感じた。ここは日本なのに、外国語が 飛び交う。音楽の影響からか、日本にいるような雰囲気ではなくなる。店内の匂いはどこ かエキゾチックな香りがする。ここは、日本だが、店内だけは異国を感じさせるのであった。

 私は、肌の浅黒い店員にどこから来たのか聞く事にした。興味本位でちょっと会話をしてみたかったのだ。

「すみません。お国はどちらですか?」 オーダーを受け取った店員がこちらを振り向くと同時に答えてくれた。

「ワタシ、インドジンネ。モシヨカッタラ、コレタベテ」そう言うと、カラフルな香辛料みたいな細長い豆のような物を差し出した。

「これは何ですか?」私がそう言うと、店員のインド人が答えてくれた。

「コレ、カラダニイイネ、アマクテ、イイヨ」

 何やら、甘くて体に良い物らしい事が分かった。とりあえず、食べてみる事にした。食べてみると、確かに甘く、口の中が清涼感で溢れる。なんだか、体に良さそうなのが分かった。不味くはないが、一口で私は満足した。一度に多く食べるものでもなさそうだった。

 私は続けて質問した。 「この甘い豆の名前はなんて言うの?」

「スイートフェンネルッテイウヨ」

 私は、このスイートフェンネルという豆を初めて食べた。カレー屋にはよく行っている が、外国人が働くカレー屋でこのスイートフェンネルを食べたのは新鮮な気分になった。 続けてインド人が言った

「コノ、スイートフェンネル、ホントウハ、カレーヲタベタア トニ、タベルトイイヨ。ショクゴニ、マタアゲルネ」

 きっと食後に食べたら、清涼感で口の中が爽やかになるのだろうと思った。

「ここは全員、インド人なの?」

「シェフハ、インドジンネ。ホールハ、インドジンノ、ワタシト、アト、バングラデシュ。 イマ、ソトデ、チラシ、クバルッテルノハ、バングラデシュ。オーナーハ、パキスタンネ。」   

 私は、それを聞くと色々な国から日本に働きに来ているのだな、と分かった。

 従業員は四人全員外国人で、四人でカレー屋を回していると分かった。それにしても、普段は、街を歩いても、そうそう外国人にはお目にかかれない。最近になって、仙台ではコンビニで 働いている外国人が多くなってきたが、南アジアの人たちではなく中国人が多い印象がある。仙台にも、国際化の波が押し寄せてきたのだと感じた。

 続けて、オーダーを受け取ったインド人が笑顔で言った。

「アナタ、ニホンジン?ナンサイ?」 ここは日本だから、日本人なのは当たり前の事だろうと私は思った。不思議な事を言う外国人だと思った。しかし、同時に外国人独特の人懐っこさを私は感じ取った。愛嬌のある笑顔が日本で生きていくには、きっと良い方向に導くのだろうと感じさせるものがあった。

「私は日本人だよ。年は二十五歳。あなたは何歳なの?」

「ワタシ、サンジュウサイネ」 外国人は日本人とは印象がもちろん違い、もう少し年齢が上に見えたが、どこか少しあどけなさが表情から感じられた。しかし、笑顔の奥に宿る目の鋭さが私を少し警戒させた。

 そんな会話をしているうちに、なぜかコーラが私の座っているテーブルに置かれた。もう一人のホールを担当している外国人、バングラデシュ人がなにやら、ドリンクバーの所 でコーラを用意しているのが見えたが、まさか、私に来るとは思わなかった。しかし、私はコーラを注文していないはずだ。 ホールを担当している、バングラデシュ人が笑顔で言った。 「コレ、サービスネ」

 私は、少し戸惑ったが、この好意を無下にするわけにはいかないと思い、コーラを飲む 事にした。感謝の言葉を伝えて、早速、コーラを飲んだ。口の中で炭酸の刺激が走る。さっき食べたスイートフェンネルと相まって、異国の刺激を味わう感覚に襲われた。それは、 日本で初めて受けた感覚であった。 そして、ラムカレーがテーブルに来た。一口目を食べた時に感じるものがあった。外国人がやっているカレー屋は、味を日本人好みに合わせているのは知っていたが、このお店のカレーは、スパイスが絶妙で、日本人好みに合わせた味としても、私は異国の味を楽しめるカレー屋を発見したと心の中で喜んだ。

 カレーを食べ終わり、まだ、口の中でスパイ スの香りが楽しめ、異国情緒の余韻に浸っていると、ドアが開く音がした。それと同時に、ホールを担当しているインド人が笑顔で言った。

「イラッシャイマセー」 私はドアが開くのを見ると、そこには体格の良い外国人が立っているのが、視界に入ってきた。

第2話へ続く

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仙台の人

図書館にある、まんがで読破シリーズを全て読みたいと考えています。

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