先生の定義 2

 身長は私より少し大きいぐらいで180センチに届きそうで、店内に入ってきたと同時に異国の言葉で挨拶らしき言葉を言ったのが聞こえた。その挨拶らしき言葉を聞いて、またしても異国に来たような感覚にとらわれた。ホールにいるインド人が異国らしき 言葉で挨拶を返すと、さらに言った。

 「オーナー、ナンデキタ?」日本語で不躾に言うインド人の言葉に、私は面白くて笑みを浮かべた。どうやら、その人物はカレー屋のパキスタン人のオーナーであるらしかった。 そのオーナーは、インド人の不躾な言葉には反応せず言うのだった。

「ちょっと、時間があったから寄っただけだよ…… 」そのオーナーは、見た目は外国人だが、流暢な日本語を操る。しかし、どこか日本人とは違うイントネーションだった。だが、 外見とは裏腹な日本語を操った事に私はびっくりして、外国人のオーナーの方に視線を向 けた。

 「オーナー、ジカン、アッテイイナ、ココ、ミンナ、イソガシイ」とインド人が笑みを浮かべながら、からかうように言った。

「私も忙しいよ。でも、時間があったからきたんだよ」と、おおらかに言うのだった。イ ンド人のからかいにはあまり反応していないようであった。私は、そのやりとりが微笑ま しく思った。

 そろそろお店を出ようとした時に、何やら視線を感じて、私は視線を感じる方向に目を 向けた。パキスタン人のオーナーと目が合った。オーナーは、私と目が合うと表情は笑顔になり、日本語が流暢に操れるのに英語で話し掛けてきたのだった。

「How are you? 」 私には、からかうように言ったものだと感じた。

 私は、英語はまったくできないが、How are you? と聞かれた場合の返事の仕方ぐらいは分かっていた。

「アイムファイン」とカタカナ英語丸出しの英語で答えた。ここはカレー屋だが、英会話 教室もやっているのかと思った。そして、パキスタン人のオーナーは言うのだった。

「英語うまいですねー。Native です。どこで習いましたか?」 パキスタン人もお世辞という概念を知っているのだと思った。ホールのインド人とは、 また違う個性を感じた。

 「学校で習っただけです。私、英語全然できないんですよ」と、申し訳なさそうに、はにかむような笑顔で、私は答えた。

「そう?Native だと思いましたよ?日本の方ですか?」 短時間のうちに2回も外国人からあなたは日本人ですか、と尋ねられる状況にここは日本ではないような感覚にとらわれた。ここには、本当に、一体どこの国の人がくるのだろうか、と思ってしまった。

「日本人ですよ。今日2回も聞かれたな。さっきも、ここのお店のホールのインド人にも聞かれましたよ」

「そう?アジア人今、日本に沢山いるでしょ?なんとなく顔みれば分かるけど、失礼のないように、念の為聞くでしょ?」 確かにここ最近になって、仙台でも外国人は増えてきた。それにしても、私はこのパキスタン人に対して私が持っている外国人の偏見にぴったりと合致してしまった。物事をはっきりと言う姿勢と、それとちょっと強引な姿勢を感じ取ったのだ。

「まぁ、そうですね。最近になって中国人が割と多くなってきましたね」

「そうでしょ?今、アジア人沢山仙台にいるんですよ」

 なんか、このパキスタン人に説得されてしまう自分がいた。少し癪に障ったが、まぁ、事実だからしょうがない。年齢は私よりも見た感じ上だ。別に事実を指摘されて憤慨する事もないが、私のプライドが少し反応したのだ。

「あなたはどこの国の人?」私は、すこし挑戦的な口調で言った。

「パキスタンですよ」 相手は、その挑戦的な雰囲気を察したのか、言葉数少なく返答した。しかし次の瞬間、 雰囲気が変わったと私は感じた。

「私はハイダルと言います。日本良い国ですね、私、もう20年仙台に住んでいるんです よ。みんないい人。素晴らしい国です」と自己紹介ついでに、日本を褒めちぎった。日本を褒めて貰ってすこしは嬉しいが、外国人が日本で生きる為の知恵なのだろうと感じた。内心、『あっ、そー』と思ったが、それでは反応は冷たいと思ったので少しオーバーに反応する事にした。

「ありがとう。そんなに日本を褒めてくれて。あなた良い人ですね」と笑顔で言ってみた。 すこし罪の意識を感じてしまう自分がいた。

「私、良い人ですよ」とパキスタン人は言った。おおっぴらに言うのを聞いて、面食らう と同時に、文化の違いと、この外国人の個性を感じ取った。しかし、普通そんな事、日本人は言わないのでびっくりした。 この言葉には『あっ、そー』と言いそうになった。自分から私は良い人だなんて普通は言わない。

 「まだお腹減ってない?ごちそうするよ?」

 私は、もうお腹いっぱいだったので無料で食べられるとしてもいらないと思ったが、こ このお店の絶妙なスパイスをまた味わいたくなっていた。無理すればまだ食べられる、そ う自分を納得させる自分がいた。

「いいんですか?」と催促するように、答えてしまった。

「いいですよー。何食べたいですか?私はここのオーナーだから何頼んでもいいですよ」 「じゃあ、チキンカレーいいですか?」

「No problem」とパキスタン人が英語で答えた。

「ありがとう、あなた良い人ですね」

「だから、言っているでしょ?私、良い人ね」 そうパキスタン人が言うと、2人で笑いあった。

第3話へ続く

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仙台の人

図書館にある、まんがで読破シリーズを全て読みたいと考えています。

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