運び屋さんは今日も行く。

小さな町の外れにある、こじんまりとした建物。そこは届けたいものをどこにでも運んでくれる「運び屋さん」の事業所。ここで働く「運び屋さん」として割と有名な少女がいた。

「おーい、イミア!」

「はーい!」

少女の名前は「イミア」。幼いころからここで手伝いをし、正式に運び屋として雇われて数年が立つ。イミアはこの仕事にやりがいと誇りを持っており、それを買われてイミアに依頼をするお得意様や常連も少なくはない。

「ほれ、いつもの常連の嬢ちゃんからの運びモノだ。」

「ありがとうございます!…忙しそうだなあ、みる。えっと…学校の記念冊子かあ。」

常連で友達からの依頼のモノを見たイミアは、感慨深げに冊子の山を眺める。ここに依頼されて運ぶモノは、どれも思い入れが深いモノが多く、そして届けることが少し難しい。だからこそ届けた時に、依頼者も受取者もみんな笑って運び屋さんに感謝するのだ。イミアはその姿を見るのが好きだし、それが仕事のやる気の糧となる。

「よいしょ…じゃあ運びに行ってきます。」

「気をつけてな、イミア。」

イミアは冊子の詰められた箱を台車に乗せて押して行く。ポケットに届け先を書いた紙を入れ、最初の運び先へ向かった。

「こんにちは、運び屋でーす!」

「運び屋?何かあったかしら?」

「こちらです。」

「まあ、懐かしい!卒業した学校の冊子だわ!あの頃は良かったわね〜…ああ!懐かしい教室に図工室!よく指を切っちゃって先生に怒られたわ!どうもありがとう、運び屋さん!」

「こんにちは、運び屋でーす!」

「おや?運び屋さん?…おお!学校の冊子だ!」

「学校の冊子?」「本当だ、懐かしいな!」「これは学校に語り継がれた、伝説の運動会の写真だな!」「ああ、あの伝説の…」「やめろ!恥ずかしい!何で学校の伝説になってしまったんだ!」「後輩達が語り継いでくれたからな。」

「ありがとう、運び屋さん。何とお礼を言ったら良いか…。」

「いいえ、とんでもないです!皆さんでじっくり見てくださいね。」

「こんにちは、運び屋でーす!」

「おやまあ、わざわざこんなところまで届けに来てくれるなんて。学校の冊子?素晴らしい!ワシはこの学校の一期生でな…本当に懐かしい。ありがとう、お嬢さん。」

そんな感じで次々と冊子を届けていくイミア。皆懐かしいと喜び、ありがとうと感謝していた。最初は無関心だったり、警戒する人でも、届けられたモノを見ると明るい顔になる。

依頼された全ての冊子を届け終えたイミアは、何も乗っていない台車を押しながら笑顔で事業所に帰宅した。

「ただいま戻りましたー。」

「おかえり、イミア。大変だったな、冥界やら天国まで届ける依頼とか嬢ちゃんも無茶させるぜ。」

「ん〜…でもみるは並行世界まで行ったりしているから、これくらい平気だよ。ちゃんと相応の報酬もくれたでしょ?」

「確かにそうだけどな…」

「それに…届かなくていい届けモノなんて、無いんだよ。だからあたしが届けるの!」

イミアは微笑んで、そう言った。

ー運び屋さんは今日も行く。

届けたいモノを想いと共に、届ける為に。

終わり

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メルン

小説を書くのが好きな、アニメ・ゲーム・読書が趣味の人です! 目についたものや不思議なことを小説にしたり、絵にも挑戦したいです。 ほのぼの、ほんわか、ちょっと謎な話もあるかも…?

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