あなたの嘆きは私の悲しみ…今までもずっとそうだったでしょう?
涼しげな常緑樹で彩られたラウンジの中で彼女はそう切り出した。
洒落たティーカップで提供されたアールグレイはすっかり冷めて、その残り香だけがこの場に漂っている。
その儚く広がった香りは彼女と共に積み上げてきたコミュニティの日々を鮮やかに思い出させるモノだ。
理不尽な現状に対して一晩中プランニングを練り上げた夜の事。
初めて提案したシステムが承認され成果が実った日の皆の歓喜の声。
度重なる不都合に対して昼夜問わず稼働し続けたときの不思議な一体感。
全てが私の…いや私たちの人生の全てだった。
それでも訪れた運命の日。
彼女が持ち出したコミュニティの権利移譲の話は事後承諾で進められていて、私はその日に創業者としての権利とあらゆる決裁資格を剥奪された。
あの時の冷ややかな皆の視線。
彼女の哀れみに満ちた目を見た瞬間に私は全てを察してしまったのだ。
彼女は私をシステム構築と権限管理の為のマスコットとしてしか見ていなかったと。
失意に打ちのめされ自分の生活を立て直すのに半年ほどかかった後、彼女からアポイントを取られた。
それはかつて盟友として働いていた時の社内アカウントに届いていた。
何を今更と思い無視することを決めようとして、少し胸が痛んだ。
今でも当時の日々は忘れることのできない大事な想い出…なら当時言えなかった恨み言を突き付けてスッキリしようではないか。
そんなことを思い指定された外資系ハイブランドのホテルラウンジに来た次第だ。
そして彼女から放たれた言葉…あまりにも受け入れがたい優しいものだった。
私は明らかな拒絶の意思を示す為に彼女に明確な敵意を込めた視線を突き刺す。
彼女はそれを受け取りかつて見せた憐みの目を再び私に向け、ひとこと言葉を紡ぐ。
私はその言葉の意味を噛みしめ、自分にとっての最大の障害となった彼女に対し決別の言葉を放った。
「ミセス・ウインディが敵に回ったという事はこれからガチの抗争を想定しないといけないわけね?どうするチーフ?」
アリスは久々の荒事の算段を組める嬉しさで弾んだ声で指示を仰いだ。
現場の判断に任せるよ、とか言ってくれれば一番楽でいいんだけどな。
そんな軽い気持ちで応答を待ったがそれほどスムーズなゴーサインがすぐ出る訳でもない。
「アリス…彼女は能天気な楽観主義者ではあったが任務を遂行する際には氷のごとき冷ややかな精密さでターゲットの心を折ってきた手練れだ。こちらも最大級の警戒レベルで当たる必要があるだろう。わかっているな?」
チーフの指示に不満げな様子を見せるもアリスはすでにワクワクを抑えきれずに実働プランを組み始める。
その目の輝きを見て制止が無駄だと分かったチーフはアリスに渋々稼働命令を出すことにする。
アリスはお待ちかねのお仕事タイムに際し磨き上げられたばかりの宝石のような目で指示に応じることにした。
