かつての蒼い日記帳50-共感すべき善意、前提となる悪意-

静かな水面に一滴の水が波面を広げていく。

その様子は自然の中の協調と共感を表しているようで興味深い。

それはこれからのコミュニティの未来を幻視させるものだ。

私はロンググラスに飲みかけのアイスコーヒーを飲み干して一息ついた。

グラスの中の氷が乾いた音を立てて自分の役目を果たしたことを主張している。

溶けて輪郭がぼやけたその姿は自分がいかに役目を果たしたかを物語っているように見えた。

その様子が現状の自分と重なって何だか妙な気分だ。

…コミュニティの存在意義を示すために力を示す意義を求められる私。

そして皆の後ろ盾として精神的支柱たる器を見せなければならない私。

まるでグラスの中のコーヒーを身を削って心地よい冷たさに保つ氷の様ではないか?

そう思うと役目を終えて原型を留めていないグラスの中の氷に妙な親近感すら覚える。

真夏の日差しを乱反射するその氷の残骸はそれでも誇らしげにグラスの中で静かに佇んでいた。

「それでリーダー様の居場所はまだわからないと。さすがに奔放すぎる夏休みをお過ごしのようね?」

美由紀は投げっぱなしの仕事の山を俯瞰してひとしきり呆れた後、どれだけの猶予があるか確認することにする。

息も止まりそうな極寒の視線を突き刺された部下の男は戦々恐々ながらこれからのスケジュールプランを手渡してくる。

最大限の猶予を鑑みて3か月。

その期間が過ぎれば今の実務関係が全て一から組み直される見込みであった。

チーフである美由紀は今抱えている担当事案の量を思い出して改めて絶望的進捗を嘆かなければなかった。

折角事業として軌道に乗り始める見通しが見えてきたところ…現状の決裁権限が取り上げられることになれば現状の激務をより薄給かつ奴隷的スケジュールで進めることになるのは避けられまい。

部署のメンバーたちは今でも限界ギリギリの体制で稼働中だ。

これ以上の融通は利かせられる余裕は一切無い。

美由紀は眩暈を覚えつつもこの現実を捌くことの重要さに向き合う覚悟を決めた。

「こうなったら関係部署への今までの貸しを全て使ってでもあの野郎をここに引きずってくるしかないわね。担当役員の海原常務へ話を通しておくから当日付で緊急A級対応体制に移行して。」

美由紀の言葉に一瞬の動揺が走ったが、部署のメンバーはそれぞれ対応に走り出した。

長い永い戦いの火蓋は今切って落とされた…

それが誰の掌の上の出来事かは誰も知る由が無かった。

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しなちー

アニメやライトノベルを1990年代から没頭している古参オタクです。 様々な作品から感じた事や個人的創作論、私なりの世界観を舞台としたショートストーリーなどを発信していきたいと思います! よろしくお願いします!

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