#12 カンタ君逃亡劇

前回の話

#12  「人生」

未梨愛…今日も来てくれて…
ありがとうねぇ…満永さんは元気かい?

ええ…元気よ…コレ、お母さんから差し入れ…

わたしが好きなたくあんだねぇ…あの子、憶えててくれたんだね…嬉しすぎて涙が零れるよ…

祖母が流した涙を見て、人は悲しい時だけじゃなくて
嬉しい時にも涙を流す生き物だと改めて実感していた。
私はまだ、悲しい時にしか涙を流したことがない…。
この先、生きていれば“嬉し涙“を流す日がくるのかな…?

そういえば、おばぁちゃん…明日退院だよね?

これでやっーーーーと、孫や娘たちと一緒に暮らせるねぇ…
限られた時間は愛するモノと一緒にいるのがシアワセだからねぇ…

愛するモノ………

その言葉を聞いて考えさせられた…家族の事はもちろん、愛しているけど
私はそれ以上に彼を…… 『ミリアン』
一番最初に浮かんだのは、彼だった……

恋する乙女の顔をしているねぇ…ばぁちゃんはいいから、未梨愛…お前には行かなくちゃいけないところがあるんじゃないのかい?

おばぁちゃん………

ほら、行った行った!!

ありがとう…おばぁちゃん!!

ガラッーーーーーーー

未梨愛と入れ違いで入ってくる看護師が最後の点滴をしにくる。

設楽さーーん、調子はいかがですかー?
最後の点滴ですよ!明日には退院ですね!

…若いってイイわねぇ……

未梨愛が外に出たのを確認し、窓を見つめた祖母は彼女を見て一言零した。

アルー!!

未梨愛は叫んで、或真の姿をキョロキョロと探す。
彼が行きそうな場所は把握しているので探せないわけがない…と、
何度も何度も探して…姿が見えないので病棟に戻ろうとした、そのとき…

だーれだ…?!

…アルしかいないじゃない…!!

ハハッ…やっぱり、バレたか…作戦失敗かぁ…

もう!!探したんだから!!何してたの?

探してたんだ…四葉のクローバーを…

見つけるとシアワセになれるっていう四葉のクローバー?

うん!本のシオリにしたくてね…
いま、新しい花の図鑑読んでるんだけど、どこまで読んだか分からなくなっちゃって………

あの本、結構ページ数多いもんね…
私も一緒に探してあげる!!

本当?ありがとう!!

それから私達は、四葉のクローバーを必死になって探したけれど…
なかなか見つからなくて気づけば私もアルも服が汚れてしまっていた。

ッ……はっ…はっ……くしゅ!!

そろそろ切り上げない?アルが風邪ひいちゃう……

そうだね…長時間の外出は禁止されてるし…

また明日、探そうよ!!きっと見つかるさ!!

私が、その言葉を放った瞬間…アルが一瞬止まった。
え…私なんか変なこと言っちゃった?

あったよ!ミリアン、ほら、四葉のクローバー…♪

アルは四葉のクローバーを掴んでニコリと幸せそうな笑顔でこっちを向いた。

ホントだ!よかったね!!

ミリアンが『きっと見つかる』って言ったから見つかったんだよ!!ありがとう♪

正直、私は何の根拠もなく…そう言った。
だから半分は申し訳ない気持ちでいっぱいだったけど…
アルがこんなに喜んでくれてるんだから…いっか…………

見つかったことだし、病室に戻りましょう!

しばらくして病室に戻ったけど
2人して看護師さんにとっても怒られてしまった…
アルの外出時間が1時間に減らされただけで外出禁止にはならなかった。
でもアルはとても悲しそうに見えた…
子供たちと一緒にいないときは、大体外にいたもんなぁ………

残念だなぁ…今度、ミリアンにお気に入りの場所を
紹介しようと思ったのに…

明日でもいいじゃない!!
それより、アルの身体のほうが心配よ!!

でも、あそこは1時間じゃ足りないんだ…
僕のお気に入りの場所だから、たっぷり時間をかけて紹介したかったし…

じゃ、今度…紹介して!!私は毎日通うって言ってるんだしさ

“そうだね”と頷いたアルは急に真剣な眼差しで私にこんな問いかけをしてきた。

ミリアンは好きな人、いないの?

え、わ…私…?いない、かな………

ホントに……?

好きな人っていうか、気になってる人はいる……

気になっている人…まだ、私はあの子のことを好きかどうか分からない…
でも、気になるあの子。

『未梨愛!!今度は、一緒にお花を咲かせようね!!』

アルにそう問われて真っ先に思い浮かんだのはアルじゃなくてカンちゃんだった。
なんでかな?私、カンちゃんのこと…好き……なのか…な?

どんな子?

うーーん、真っ直ぐで決めたことは最後までやり遂げて…
いつも前に進んでいる子かな…

なんで、アルはこんなことを聞いてくるのだろう…。
不思議でしょうがなかった……

そっか…僕もその子みたいに前に進まなきゃね……

でもね?
なんだか、その子とアル…少し、似ている気がするの…
お花が好きなところとか、花のことになると一生懸命になるところとか、幸せそうに笑うところとか……

そんなに似てるんだ?
でもいいね、花を大切にする人とは僕も仲良くできそうだ…

カンちゃんと会ったら気が合うと思うわ!
カンちゃんも花に詳しいから!!

カンちゃん?て言うんだね。
うん…1度会ってみたいな…

未梨愛はベッドで横たわっている或真に
急いで鞄から取り出した1枚の写真を見せる。
そこに映っていたのは、未梨愛が“カンちゃん”と呼ぶ人物。

この人がカンちゃんさん?

カンちゃんっていうのは私が呼んでるだけ…
本名は、姫路幹汰。

姫路……幹汰…君

カンちゃんの写真をまじまじと見つめるアルは、
何かすごく考え事をしていたようだった…
しばらくして、写真を返されてお礼を言われた。

ありがとう…いつか会えたらいいな…

私も、アルとカンちゃんには1度でいいから会ってほしい…
この2人共通点多そうだし2人一緒にしたら、どんな話をするんだろう??

ミリアン…もう6時だけど大丈夫?
今日の面会時間終るね……

やだ…いけない!!今日は7時から家族会議なの!!
お父さん呼んで帰るね…

うん……またね

その日は、“また明日”ではなく“またね”だった……
あの時、面会時間を使い果たしてもあの場にいるべきだったのかもしれない…

翌日。__________

おばぁちゃんが退院して、お父さんと一緒に家族の最後のお見舞いに行った。
これで私が病院に通う理由は…
もう家族を口実にアルの病室に行くことができなくなった。
おばぁちゃんは気づいていたと思うけど…


それでも、私は語彙力が乏しいなかお父さんを説得して…
夏いっぱいまでという期限つきでアルの居る病室に通うことを許された。

やあ…今日も来てくれたんだ?
おばぁちゃん退院したんだってね、おめでとう…

ありがとう…でも、8月までは会いに来るよ。
お父さんから許可、もらったの…

ミリアン…いろいろ考えて決めたんだ…
ボク、手術受けるよ…

よく、決意したね…いろいろ悩んだでしょ?

やっぱりまだ怖いけど…
少しでも大切な人と一緒にいる時間を伸ばしたいから…

アルが決めたことなら、私は応援するよ…

ボクも幹汰君みたいに、試練に立ち向かっていこうって思ってさ

カンちゃんはカンちゃん…アルはアルよ?

ボクなりに頑張ろうって思ってさ…

……

アルの真剣な瞳、その瞳に迷いは一心もなかった…。
私は不安を煽るようなことは言わず
手術日が来るのが少しの間怖かったけど
その日はあっという間にやって来た_______

手術日

いよいよだね…

うん…ミリアン、
ボクが帰ってくるまでコレ預けておくから

そう言われて渡されたのは、
あの時一緒になって探した四葉のクローバー
手術から戻ってくるまでクローバーを代理で持つことになった。

うん!待ってるから…
必ず、帰ってきてね!!

どんな結果になっても、悔んだりしたらダメだからね?
『ミリアン…生きるのをやめたらダメだよ?
キミには想いを告げる人がいるだろう?』

その言葉を最後にアルは手術室に運ばれていった…

そう、よね…。これが最期じゃないもんね………
約束したもんね?
この四葉のクローバー必ず、返すんだから…ね、
そうでしょ?シアワセの四葉のクローバー…
お願い、チカラを貸して。

それから数時間経っても、手術室からアルが出てくる様子はなかった。
私はアルが向こうの扉から笑って出てくるのをずっと待っていた………
何時間が経過したのだろうか…
手術室のランプが完全に消えて医者だけが出てきた。

せ、せんせい…アルは?わ、わたしの………友達は?

私は医者のもとへ駆け寄りそう言った…。

手は尽くしましたが…誠に残念です………

え…いま、この人なんて言ったの???
残念??なにが?

じょ、冗談でしょ?ねぇ、ウソと言ってよーー!!!!

…………

医者は無言で俯きそれ以上何も言わなかった……
私は、ずっと信じてたの…
アルが必ず生きてこっちに帰ってくることをなのに……
もう、アルはいない……

こんなことなら、昨日ちゃんと告白しておけばよかった………
言える機会はもっと沢山あったはず。
私はなんで、言わなかったんだろう……
もとから手術の成功率は低いって聞かされてた…
でも、生きてこのクローバーを受け取って
また、いつものように本を読んで話して…


まだ____お気に入りの場所に案内してもらってないよ………??
それに………

1回も私の事、未梨愛って呼んでくれなかったなぁ………

涙がボロボロと零れて、
私はこれまでにないくらいの何度目かの“悲し涙“を沢山流して泣き崩れて…
そして、誓った……

もう誰も好きにならない…
好きになって、好きを伝えられずに居なくなってしまうなら、
初めから誰も好きにならなければいいんだわ…。
……もう誰も好きに…

『ミリアン』

ダメだよ、あなた以上に好きになるような人一生現れないよ…
それなのに…アルが最期に私に言った、

『ミリアン…生きるのをやめたらダメだよ?キミには想いを告げる人がいるだろう?』

あの、言葉の意味は…私が想いを告げる人って…
アルじゃなくて…他に誰がいるの??

『未梨愛…!!』

アルと似た優しい笑顔、アルと似ている性格…私の事を未梨愛と呼ぶ少年…
この記憶の少年は…

カンちゃん!!

アルは居なくなってしまったけど、カンちゃんはまだ…いるッ!!
アルの次にカンちゃんまで失ってしまったら、もう私生きていけないッ…!!
なにがなんでも…カンちゃんだけは私が守ってみせる…


アルにしてあげられなかったこと…カンちゃんと純粋にしたいこと…
全部叶えて、アルの分もカンちゃんをシアワセにしなくちゃ…
これは、私に課せられた使命…

_____2年後

父親の転勤で、もといた東京に私たちは戻って来た。
これはもう…運命としか言えないわ…
東京には私の大事なカンちゃんがいる…

待っててね…カンちゃん…迎えにいくから

中学生になった私はカンちゃんと同じ学校に転入したけれどクラスは違った。
ここから始まる、私のリスタート…
今度こそ、大切な人を2度と失わせない!!
たとえ、どんな手を使ったとしても…

第13話へ続く

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水樹

最初に絵を描き始めたのは小学生の頃でした。 それから、自分の世界観を文字におこしたり、絵にするのが趣味になっています!!

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