solitario×不思議図書館オムニバス小説「薔薇の貴婦人と黄色の百合」

本編

ーフランス、パリの大手企業が所有するパーティ会場。ロゼレムは自社の代表として招待を受け、会社の顔と商談の為に出席していた。

時刻は夜9時頃、パリの夜景が美しく輝く時。真紅のドレスを纏い、それなりに高めのシルバーのブレスレットと赤い薔薇のアクセサリーを付け、配っていたスパークリングワインの入ったグラスを持ち、壁の花となっている。

理由は招待客の殆どがパートナー同伴で会話をしているからだ。

ロゼレムには夫がいない。パーティーの初めこそ商談や挨拶で忙しいのだが、それが終わればほぼやる事は無くなる。だがサッサと帰る訳にもいかない。主催側と、自分の顔と会社を潰す事になるから。

(…こういう時は外か喫煙室に吸いに行きたいのだけれど。)

生憎この会場は主催側の意向で全室禁煙、喫煙所は外の更に奥にある。

(少し行って来ようかしら。)

と、ロゼレムが壁から会場の出入り口の扉に行こうとした時。

「ロゼレム様、少しお話が。」

主催側の秘書が声をかけてきた。

「…商談なら、あの条件で成立となった筈ですが?」

「いえ、実は…催し物に呼んだ歌手が途中で事故にあいまして…」

「あらまあ、それは大変ですこと。」

「代理も誰も居らず…そこでCEOが先程の10倍の額と、別途10億を差引き無しで支払うので、ロゼレム様の歌声をステージで披露してくれないか…と。」

秘書の言葉に眉を潜めるロゼレム。確かに歌は上手いと評判だが、わざわざステージで披露するようなレベルではない。そもそも自分は歌手ではないのだ。

少し考えた末に、答えた。

「…ふーん…CEOは客に対してそんなことを要求するの。…そうね、別に金は要らない。そちらの会社で使ってるモデルの子をウチに引き抜きたいわ。それが大前提。」

「はい、CEOにお伝えして来ますので、少々お待ちください…」

「ちょっと待って。」

そこに現れた、長金髪に肩と腹部を出し、和服のようなたもとがある裾、マーメイドラインのスカートを履いた異様な女性。その手には和製の扇を持っていた。

「もちろん、彼女の全てを傷つけない保証はするのでしょうね?失敗を咎めたり噂を広げるなんて、上の者としてもっての他よ。」

「そ、それは当然でございます!」

「あと成功した場合は商談の額は全て倍額、広告費も付けて…それから商品の取引は優先的に。これくらい付けないと。」

「ええ…そ、それは…」

「CEOに今すぐ伝えなさい!」

「は、はいぃ!」

扇で指された秘書は慌ててCEOの元へ向かい、女性はロゼレムに耳打ちする。

「…貴女が良ければ、私が協力しますわ。もちろん無償で。」

「貴女はどなた?」

「…『ユリドール』と申します。薔薇の貴婦人様。」

その名に全く聞き覚えが無いロゼレムだったが、ユリドールは何か裏がある顔をしていない。嘘をついている訳でも無いように見える。

「協力、と言いましたが…私は貴女のことを知らない。そんな訳もわからない人が、CEOが要求するレベルの歌に付いて来られるの?」

「あら、随分と強気ですのね。もちろんそれなりの実力はありますわ。万が一にも、失敗…あるいは少しでも不快な事があれば、その時は命だろうと、どうぞ遠慮なくお取りくださいな。」

今の言葉だけ、何か引っかかったロゼレム。だが、逆に言えば命を取ろうとしても相手は問題無いくらいの自信があるという意味。

そこへ慌ただしく秘書の者が戻って来た。

「CEOの了承を得て来ました。こちらが誓約書です。」

「お話のわかるCEOでよかったわね。でも、決定権は薔薇の貴婦人様にありますが。」

ユリドールは受け取った誓約書と、その写しを入れたSDカードをロゼレムに渡す。

誓約書に目を通したロゼレムは、サインをして秘書に渡した。

「…良いでしょう、受けますわ。」

「私はサポートとしてステージに上がりますが、よろしくて?」

「はい、もちろんでございます。よろしくお願いします。」

秘書はペコペコと何度も頭を下げながら、2人をステージ横の幕へと案内する。

「質問をしても良いかしら?」

「ええ、どうぞ。」

ステージに上がる直前、ロゼレムはユリドールに問いかけた。

「…なぜ、私の話に口を挟み、勝手にサポートまで買って出たの?私は…」

「1人で良い?」

「ええ。これは私の問題だから。」

「…1人では見えないものもありますわ。」

「それは…」

ユリドールのその言葉に返す事が出来ないまま、ロゼレムはステージに上がる。ユリドールの手に引っ張られるままに、スポットライトの光の下に立つ。

楽団の鳴らす楽器と電子の入り乱れる音色は、不思議なことに互いを潰す事は無く、混じって新しい音色を奏でる。2人は同時にスタンドマイクを持った。

始まりは、ロゼレムの高音のコーラスの響きに合うように付いてくる、ユリドールのやや低音の奏でる歌。

やがて2人の音程は等しくなる。

招待客の困惑は歓声へ変わり、会場は2人の独壇場となった。

歌いながらロゼレムは気付く。

サポートと言いつつ、ユリドールは隣に立つレベルの歌声になっている。だが決してロゼレムより前には行かない。立とうとはしない。

ロゼレムの赤い薔薇のアクセサリーが

ユリドールの黄色の百合の髪飾りが

音と共に揺れる。

そして曲の終盤…

パチン!とユリドールが指を鳴らすと、天井から赤いバラの花弁が降り注ぎ、客も主催も盛り上がりを見せた。

曲が終わり、一礼をすると惜しみない拍手が送られる。ステージから降りると、それまで特に話さなかった他社の者にまで言い寄られ、ロゼレムはしばらく身動きが取れなかった。

やっと解放された時、今度こそロゼレムは喫煙所に行こうとする。

「…貴女はイケる口なの?良かったら1本…」

そう言って振り返ると、一緒にいた筈のユリドールの姿は無かった。

「……?」

お手洗いにでも抜け出したのだろうか?そう思ったロゼレムは出入り口の監視役に声をかける。

「ねえ、黄色の百合の頭飾りをした女性がどこに行ったか知らないかしら?」

「黄色の百合?ロゼレム様のお連れの方でしょうか?」

「え…何を言っているの?ステージで私と一緒に歌っていたでしょう?」

「いえ…あの…ロゼレム様は最初からずっとお1人で、ステージにもお1人で立っていましたが…?」

「は…?」

「それに招待客のリストにも、こちらの関係者にも、黄色の百合の頭飾りを付けた女性という方はございませんが…。」

…あのパーティー以降、モデルは確保し商談も前より増え、ロゼレムの会社はより良い評判が多くなった。

だが、どう探してもユリドールらしき人物は影も形も見つけられない。

自分が酔った勢いで見た幻覚だったのかも知れないな、と探すのを止めた頃…。

ふと、換気の為に開いていた窓に近いテーブルに、紫色の薔薇と見覚えの無い便箋が置いてあることに気付いたロゼレム。

黄色の百合が描かれた便箋を開き、内容を流し読む。

ロゼレムは便箋を畳んで机の引き出しにしまうと、紫色の薔薇を花瓶に差し、次の新作衣装のデザイン案を考え始める。

「あれはマーメイドライン…でも、あんなに身体のラインを消すドレスなんてあったかしら?それに…」

ふと、ロゼレムは思う。

ユリドールに、足のラインが…そもそも足があるように見えなかったのだ。一番近い場所にいて、かつブランド品を扱うロゼレムだからこそ気付けた疑問点。

「…気のせいね。」

・・・

『薔薇の貴婦人・ロゼレム様。

 素晴らしい歌声に感謝を。楽しい時間をありがとうございます。どうか、この紫の薔薇が黒くならないことを祈りますわ。 ユリドール。』

終わり。

おまけ

(ロゼレムside by柏木桜)

「ねぇM、この世界に幽霊っていると思う?」

「幽霊?どうした?ヤニ吸い過ぎておかしくなったのか?」

「…いいえ、昨日不思議なことがあってね…。どこかから楽しそうって思って来たのかしら」

「そう考えればいいんじゃね?…てか、その話をする為だけに私を呼んだのか?」

「それだけの理由で呼んじゃだめなのかしら?」

「それだけなら帰る」

「あらずいぶんと正直。…けど、私たちもああいう風に楽しめるのかしらね…」

「悪事頼ませるやつが何言ってんだか…。私は死んでも楽しめないと思うけどな」

「ふふっ貴女らしい」

ーーー

(ユリィside byメルン)

「師匠ー!!魔法とか魔術の無い世界で魔術使ったでしょ!!」

「あら?何の話?」

「とぼけてもダメ!そもそもその魔力の一部は私の魔力なんだから、わかるに決まっているでしょう!」

「あ、そうだったわ。ごめんなさい?みる。」

「もうー!何かあったら師匠のせいだからね!」

「でも、みる。もし亡くなって同じ幽霊になったら…こっちに連れて来ちゃダメ?」

「ダメに決まっているでしょうが!!」

「えー、良いお茶会友達になれそうなのに。」

「師匠、本当はまだ悪霊じゃない?」

「どうかしらねー。」

おまけ・終わり。

コメント&後書き

・どうも、solitarioの作者の柏木桜です。

今回は私じゃない人が書いた作品を読んでいただき、ありがとうございます。

最初は結構癖強め(?)な作品の二次創作って聞いた時「えー???いけんのー???」と本音で思ってしまいました。

だって犯罪が主体だし、出てくるキャラの大半が自己中なんで慣れてないと書きにくいっすもん。多分。

まあ、そんなこんなあって出来上がったのを読んだ時「ふーん、やるやん」と読みながら思いました。

それと同時に「他の人が書くとこんな感じなのねー」とも思いました。これは新たな発見かもしれませんね。(濾過されたロゼレムは不思議な感覚でしたが…)

これ以上はないです。だってこれ以上書いたら長文になると思うんで。

それでは、さいならー。

(全然関係ないんですけど、私、オルフェーヴルという馬が好きなんですよ。だから何だって話でしょうけど…)

ーーー

・ご拝読ありがとうございます、この小説と挿絵の作者兼、不思議図書館の作者のメルンです。

これを書くキッカケですが、没にしようとしたイラストを職員さんに凄く止められ、お伺いを立てて許可されたので、せっかくだから小話でも付けようとしたら…こうなりました。当然ながら柏木桜氏のチェックが多々入っております。

正直書いている時はノリノリでしたが、桜氏のチェックが入ると、キャラクターの設定がちょっと違うとか、全体的に緩いとか、最早違うキャラでは?とか予想以上に自分のロゼレムさん像と、原作者のロゼレムさん像が違うことに驚きました。

(二次創作って、とても寛容に作られているのですね…。)

第2弾を書きたいか?と言われたら、今は否です…すごく精神力を使いました。それにやはり自分のホームに来てもらう方が書きやすそうです(それはそうだ)。でも私は車や銃の知識が皆無なので、Mさんやエルヴィーラちゃんだったら多分書けません。

いつもと違うsolitario、いつもと違う不思議図書館、楽しんで頂けたら幸いです。

最後に、小説及び挿絵のチェック、設定や案提供、そしておまけと感想まで書いてくださった柏木桜様、本当にありがとうございました!(土下座)

(…ちなみに私はお姉さまで、ソダシ推しです(引退しちゃいましたが)。)

柏木桜様→https://no-value.jp/author/0010290052/

11/08作成、メルン。

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メルン

小説を書くのが好きな、アニメ・ゲーム・読書が趣味の人です! 目についたものや不思議なことを小説にしたり、絵にも挑戦したいです。 ほのぼの、ほんわか、ちょっと謎な話もあるかも…?

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