アダムはいなかった 「願い」4

「あなたと一緒にいるのが、思っていた以上に楽しくて心地よかったので。
 ……だからまあ、あなたが寂しいと思うなら。一緒に死ぬのではなく、一緒に生きてやってもいいかな、と思ったんです。まあ別に、あなたのことを愛しているからとかではないんですけど」

「最後の一言いらないでしょ絶対!」

「とは言われても、父のこともありますし。あなたが早々に来てくれていたら、あるいは好きになってたでしょうけど……ねえ?」

「うう……十年前の僕のばかあ……」

 泣き真似するなよ……

「でも、いいのかい……? 僕以外にも、この世界には色んなひとがいるだろうに」

「……言いたいことは分かります。私がいつか他の人間を好きになったら、恥も外聞もなく泣くぞっていう意味ですよね?
 そこはいずれ、好きにさせてみせるとか……よそ見させるつもりはない、とか言っておいた方がお得だと思いますよ」

 ……彼にしては珍しく、リアクションまで数秒の間があった。

「いい、の?」

「いいのも何も、私は私一人だと不変ですよ。あなたがどうこうって話です、ただし私は手強いですよ。それでもいいなら、あなたが満足するまでは一緒にいてあげます」

「それってもう、好きってことにしちゃダメかい……?」

「ラブとライクの違い、もしかしてご存じない……?」

 言えば赤い頬のまま、「もー!」とくしゃくしゃの顔をする。思わずくつくつ笑っていれば、サイラスは唐突に真剣な顔になった。

「……言っとくけど。前にわざと聞かせたようにさ、僕の愛情はすっごく重たいんだから。
 受け止めきれないですーとか言われても、逃がしてあげられないからね」

「いいですよ、望むところです。見事私から『愛してる』って言わせることに成功したら、神隠しでもなんでもどうぞ」

「言ったね! それ言われちゃったら僕も張り切っちゃうもんね、絶対言わせてみせるから!」

 言ってすぐ、彼は私を正面から抱きしめた。

「……ありがとう、希空。こんな奴のこと、見放さないでいてくれて」

「私も大概ですけど、あなたのその自己肯定感の低さもどうにかしたいですね。
 ……とはいえ私こそ、ありがとうございます。あなたがいなければきっと、事件解決どころの話じゃありませんでしたから」

 抱きしめ返して背を撫でてやる。それだけでまた、「好きだ」と言うものだからつい剥がしかけたが……まあ、今だけは付き合ってやるか。

「これからもずっと、そばにいてもらえるように頑張るよ」

「じゃあ私は、愛想を尽かさないようにするのを頑張ろうかな……なんて、冗談ですよ冗談。すみません、言いすぎましたね」

「うう、希空の冗談怖すぎる……」

 心弱すぎるだろ。だがまあこれで、残る問題はあと一つだ。微かに震えるサイラスから身を離し、伸びをしながら立ち上がった。

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静海

小説を書くこととゲームで遊ぶことが趣味です。ファンタジーと悲恋と、人の姿をした人ではないものが好き。 ノベルゲームやイラスト、簡単な動画作成など色々やってきました。小説やゲームについての記事を書いていこうと思います。

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