アダムはいなかった 「願い」6

 ……そんなこんなで各階層に、ワープポイントの設置を済ませ。改めて通信端末に目を通せば、あれからまた三十分ほどが経過していた。

「でも、いいのかい希空? その銃って色々、君にとってはトラウマものじゃ」

「私としても、もう使うつもりはなかったんですけどね。方舟はイヴの創造物ですし、血で殴るのが一番早いかなあと」

「……吹っ切れたねえ希空……僕は嬉しいよ……」

「誰目線なんですかそれ……」

 ほんの少し前まで、「太陽」があった台座の上。狙う位置を細かく調整しながら、ふとサイラスに目をやる。

「……どうしたんですか、サイラス」

 なぜか彼が、寂しそうな顔でこちらを見ていた。台座から降り、歩み寄って手を握ればぽつり、と何かを呟いている。

「……聞こえないです。もう少し大きく」

「うう……僕もさ、希空に敬語じゃなくて普通に話してほしいなあって……」

「あ、すみません。敬語が癖になってまして……改めて言われない限りは、ずっとそうするようにしてました。
 ……よし、じゃあこうかな。たまにうっかり戻るかもしれないけど、その時は言ってくれれば」

「やった、ありがとう希空! 嬉しいなあ……」

「大袈裟だって。それじゃあサイラス、始める前に外の様子の確認お願い。イヴもああ言ってたし、多分大丈夫だろうけど……一応ね、水がどばっと入ってきましたとか笑えないから」

「分かった!」

 一瞬にして、サイラスの姿が消える。いつ見てもとんでもない力だよなあ、と息をついて、私は街を見下ろした。

 ……やはり、未だに「外」が明るくならないことを不審に思っているのだろう。豆粒ほどの大きさだが、人がぞろぞろと現れ始めている。

 そして皆、上を見ては何か言っているのだろう。その中にぽつんと、翡翠の髪をした男を見つける。

「ただいま、ちゃんと晴れてたよ。水もしっかり引いてるから、やるとしたら今だろうね」

「……ねえ、サイラス」

「うん?」

「幸せって……いったいなんなんでしょうね」

 込められた弾丸を確認する。もう一度上を見て、撃つべき場所を見定めて。再度彼に向き直れば、「むずかしいこと、言うね」と。

「……ですよね。私にも分からないです」

 一歩、彼へと歩み寄る。

「でもきっと、僕たちがしようとしてることは……その幸せとやらに、大分貢献できるんじゃないかな」

 彼もまた、私へと歩み寄り。太陽の間の中央に、二人並んで天井を見上げる。

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静海

小説を書くこととゲームで遊ぶことが趣味です。ファンタジーと悲恋と、人の姿をした人ではないものが好き。 ノベルゲームやイラスト、簡単な動画作成など色々やってきました。小説やゲームについての記事を書いていこうと思います。

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