アダムはいなかった 「贖罪」2

「まあ、万事解決ってやつだろうね。もちろんもう、戻らないものもあるけどさ」

 ひとつ頷く。無意識のうちに、アレクの定位置だったカウンターに目をやるも——もうそこに、瓶はあれども彼はいないのだ。

「出発前に、ちょっと寄っていこうか」

「……うん」

 優しい手が、私の頭を撫でる。なんとなく既視感を覚えたのは、いったいどうしてなのだろう。

「……本当に、迷惑かけたし悲しい思いをさせちゃったね。ごめんね」

 そして訪れた、アレクの妹である少女の墓だ。許可を取り、アレクのいた瓶を近くに埋めてもらって、私は少女に向かっての謝罪を口にする。

 どうしてかひどく、安心できる場所だった。決して大きくはない墓のそば、もっと小さな十字架は、きっと仲の良かったペットのそれにも見えるだろう。本当ならもう少し、大きく作ってやりたかったが……スペースの都合もあるし、狭くてごめんねと苦笑した。

「どうか安らかに……っていうのは、私が言えたことじゃないんだろうけど……せめて、願わせてください。お兄ちゃんとも、仲良くね」

 手を合わせ、彼らの安寧を願う。そうして荷物についた土を払いながら、私は静かに立ち上がった。

「……もういいのかい?」

「うん。あんまりいると名残惜しくなっちゃうし……兄さんもあんまり、湿っぽいの好きじゃないだろうしね。

 それじゃあ行こうか、またね兄さん!」

『おう。また会いに来いよ、いつでも待ってるからな』

 ……え?

 辺りを見回す。だがそこに、声の主らしき青年はいない。

 サイラスに視線を送れば、切なげに笑っている辺り彼にも聞こえたのだろう。差し出された手を取り、歩き出した私たちの背後。はしゃぐ少女の笑い声と、それを宥める兄の声が。今度はほんのうっすらと、聞こえてすぐに消えていった。

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静海

小説を書くこととゲームで遊ぶことが趣味です。ファンタジーと悲恋と、人の姿をした人ではないものが好き。 ノベルゲームやイラスト、簡単な動画作成など色々やってきました。小説やゲームについての記事を書いていこうと思います。

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