アダムはいなかった 「贖罪」3

 見上げた先の巨大な球体には、大きな字で「親愛なる太陽へ」とだけ書かれている。その近くには小さな石碑と、供えられた花々があって——大変ちょうどいいことに、今は周りに誰もいない。

「……で、ここは……」

「いつかの組織の跡地と、『太陽』の慰霊碑だって。見事に壊されちゃったねあのビル、なんかいっそ寂しいな」

「そうだねえ、でもこれからは働き口も山ほどあるし……何より神を殺す必要もない。となれば不要なものだろうしね、病院とかは別に建てればいいしさ」

 それはそうか。何がなんでも残るべきもの、というわけでは全くなかったし……むしろ今では、病の根源だったのではとすら思う。

 彼がしたことは、決して褒められたことではなかった。それは確かだ。それでもジェイドとイヴの、互いを想う気持ちは本物だったと思う。だからここで、静かに眠るイヴに向けて。私はもう一度、「母さん」と呼びかけた。

「ちょっとだけ、サイラスと旅に出てくるね。しばらく戻らないだろうけど、多分元気でやってるから心配しないでいいよ。
 ……また、会おうね。約束だよ!」

「よし、誰もいない! さっさと出ちゃおう、騒ぎになると遅くなるしね」

 そしてやって来たのは、最近できた「外」への出入り口だ。半ば裏口のようなところだが、目立ってしまうよりはずっといい。

 ……というのも、私があの日天井を切り開き——空を解放した日。とんでもない高所にいたというのに、誰かが私たちの姿をとらえ、救世主として私とサイラスの名を広めてしまったものだから。私たち二人は、そこそこの有名人として知れ渡ってしまったのだ。

「はは、これじゃあまるで夜逃げじゃないか。いや昼間だから昼逃げかな?」

「そういうのは別にいいんだよ。私たちみたいなやつはいつの間にかいなくなってるくらいがさ、ちょうどいいと思わない?」

「そうだねえ、そして僕たちは伝説になっちゃうってわけだ」

「うーん、そこまでは望んでないかなあ……」

「——希空!」

 だが。さあ出るぞ、という時になって、背後からジェイドが駆けてくる。

「ど……うしたんですか、何を言われても私たちは行きますからね」

「違う、止めにきたわけではない。
 ……ただ、謝りたかったんだ」

 言ってすぐ、ジェイドは深く頭を下げる。君たち謝り方そっくりだね、と呟くサイラスを肘で小突いた。

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静海

小説を書くこととゲームで遊ぶことが趣味です。ファンタジーと悲恋と、人の姿をした人ではないものが好き。 ノベルゲームやイラスト、簡単な動画作成など色々やってきました。小説やゲームについての記事を書いていこうと思います。

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