「リアルから隔絶された世界で勝ち組としてあなたも輝くバラ色の人生を掴み取ろう!」
世の中にありふれた人生逆転願望を煽るそのメッセージに改めて思うことは無かった。
日常で見つめるべきものが必ずしも世の現実や世界の理でなくても構わない…それは個人としての自由だ。
無論頭ではわかっているはずの理屈。
それでも周りから求められる理想像は彼女を「クールなリアリスト」と定義づけており、彼女本人もその枷から逃れられずにいる。
それでも彼女はその枠組みの中から出ようとはしない。
そう、人々のもたらすそのセルフイメージだけが彼女が天界の民であった唯一の証であるのだから。
「つまりは番外戦術の熟練度勝負をしたいというのがメインコンセプト、という理解でいいのかしら?」
部署のメンバーが取りまとめた渾身の嘆願書は上司のその一言で却下となったようだ。
分厚いその書類の束に目を通してもらえただけでも良しとすべきなのか?
響子は無下に扱われた自らの部署のメンバーが作り上げた苦労の結晶を憮然とした表情で眺めるしかなかった。
表面上は理解してもらえた風の言葉が選ばれたものの、結論としては「現実として扱う価値無し」と判断されたことに違いは無い。
”いつも通りの願望や幻想だけでは理想像の具現化は難しいのではないでしょうか?”
喉まで出かかった正論をぐっと飲みこむと響子は理性を総動員して感情を抑え込む。
この場で論戦に応じてくれるような人なら今までの下準備は必要なかったはずだ。
自分一人の感情でこの場を壊すようなことは部署のメンバー達のこれまでの献身を無駄にすることと同義。
そこまでを脳裏で整理すると響子は改めてこの場で何を主張すべきか考えをまとめていく。
折角こぎつけた意思決定の場…無下にすることはできない。
そしてこのまま引き下がれば長期休暇という名の戦力外通告が言い渡されるのは確実だ。
まずは次回の機会にまた頑張りますなどという幻想をキッパリと捨てねばなるまい。
いつも信望していた「現実」というものはこういったここぞという場で致命的な敵方の切り札となる。
それでは今この場で私が使える武器と手札は何が残っている?
思考が脳裏を高速に巡った一瞬後、響子は退室勧告を残すだけという空気の上司へひとつの提案で切り込むことにする。
それは現代の科学技術や三次元認識から逸脱する可能性…神の領域への架け橋となる技術理論。
上司はその提案をしている響子の鬼気迫る瞳の力を微笑ましく感じ、これからの日々の期待感を響子の部署へ担わせることにした。
