お父様…いえご当主様。この国は、大日本帝国とこの帝都はまもなく焦土となります。速やかにご決断を。
羽衣は自らの未来視の力で見た絶望的な未来像を進言し、指示を仰いでいる。
いつでも頼りになる斎木家の皆の指針となっていたお父様。
この危機的状況をも跳ねのける指示を出し皆を導いてくれると信じていた。
しかしその言葉を聞いた時の激昂した表情は伝説で語られる悪鬼そのものであった事を鮮明に覚えている。
そして訪れた運命の日…空を埋め尽くす爆撃機の数を見て逃げ惑う人々。
その悪夢そのものの現実を目撃した瞬間、私の意識は現実を受け止めきれず白く染まっていた。
そしてその白い閃光が収まった後に私が見たものは何処か知らない日常風景だった。
誰もが見知らぬ衣装を纏い、見覚えのない巨大な建築物が立ち並ぶ街並み。
東京駅にたどり着いた時の驚きは今でも鮮やかに覚えている。
そして現実のこの世界は遥か未来の日本だと教えられた日の事。
終戦後まもなく小さな貸事務所ひとつからやり直した斎木家の青年が始めたコミュニティは今や世界的規模の財閥としてこの世の「現実」を定義しているとのこと。
その創業者の青年の名前が私の弟と同じモノであること。
あの悲劇的事態からどれほどの苦悩を背負い事業を立ち上げていったのか想像しえなかったが、今この時代に来た意味も必然としてあるだろう。
羽衣は自らの直感がまだ運命を導く使命を負っているという感覚を感じ、行動を開始した。
