「誰もが知っているようなお決まりの事案でも承認が下りないことはよくある事だと思います。」
いかにも投げやりで他人事そのものの扱いの報告書に目を通し、ミモザは自分の感情が波立つのを抑えきれずにいた。
信頼性のかけらもない添付データの塊にはこれからの足掛かりになるモノはまるで無い。
それでいてやるだけやりましたという主張だけは激しい絵日記構文がミモザの感情を逆撫でている。
今回の事案はこれからの日常の在り方を決定づけるここ一番の大事なモノだったはずだ。
それなのに返ってきた子供のお使いレベルの報告書…失望と怒りと呆れの混ざった感情を持て余し、ミモザはとりあえずその書類の束を自分の執務机に叩きつけてから考えをまとめようとする事にした。
そもそも種を蒔いていない畑から作物は収穫できない。
その為に回してあった言質や取り決めはかなりな数仕込んであったのだ。
それを上層部の一存で反故にされてはこちらの立場も総崩れである。
神の御業のごとく手からパンやワインが出せるならその時々の気まぐれで物事を決めても現場は回るだろう。
しかし我ら人間はそのような都合のいい事を成しえる力を持っていない。
そこらへんの初等教育からやり直すべきなのか?
ミモザは段々と募ってくる苛立ちに耐えつつ、理性的な理論組みを自制することに専念する。
それでも「どこから畑に蒔く種を調達したほうがいいでしょうか?」とか聞かれたら正気を保っていられる自信は無い。
そしてこれからゆっくり講義で教育している余裕など無い。死神の鎌はすでに私の首に添えられている。
現状の問題を解決できなければどこかの魔術工房の魔導具の一部として役に立つことを強いられるだろう。
それは目の前にある唯一の確かな現実性だ…それでも。
ミモザは答えの出ない思案を一度打ち切ると背伸びをして執務室の窓から見える景色に目を向ける。
そこにはいつも変わらぬ人々の暮らしと生活の為の明かりが灯っており、まるで異世界の様な非現実性をミモザの心にもたらした。
そうか…まずはこの日常に戻ってくるための帰る場所を確保するべきかな。
ミモザはまず地獄の釜の中にいる自分を労わるべくお気に入りの茶葉とティーセットに手を伸ばした。
