結局貴方の見る目は確かだったというわけですね。
彼女は手元の報告書類に一度目を通した後、対面に座っている私に微笑み今回の成果を称賛した。
先程までこの執務室に張り詰めていた空気は幾分和らいだような気がして私はひとまず胸を撫でおろす。
丸投げという言葉が裸足で逃げ出すほどの白紙委任な今回のプロジェクト。
その話を聞いた時にはどこかのお茶会で使うお茶菓子トークだろうと思って聞き流していた。
…なかなか挑戦的な企みですねとか調子のいい相槌をしたのが良くなかったのかもしれない。
”挑戦するのは他ならぬ貴方なのだけど?”という言葉を賜った時の彼女の嬉しそうな表情はここ最近の悪夢の定番要素であった。
それでも私はかつてないほどのブレイクスルーをこなして自分が信じられない程の反響ある仕事を収めて見せた。
その為に自己肯定感は爆上がりで同僚たちからの承認も心地いいモノであった。
あとはボスである彼女の決裁が下りれば後は現場の人間への引継ぎを終わらせてひとまずバカンスへ直行だ。
先程のお褒めの言葉を頂いた解放感で私はすでに使う静養地の選定や友人とどんな休暇を過ごすかで頭が一杯だった。
だからこそ見逃したのかもしれない。
彼女が部下に対して労働搾取するときの嬉しそうな顔。
見慣れた筈の地獄への片道切符の握り心地を思い出すのに時間はさほどかからなかった。
「この一帯の異能者間トラブルや一般人との摩擦要因を洗い出して解決する為の体制構築を目的とした計画、”プロジェクト・リヴァイアサン”か。ボスは最近ファンタジーもののRPGでも始めたのかな?もしかして中学校のとき竜の巻き付いた剣のキーホルダーとか買ってテンション上がるタイプだったりした?」
望海はわりと踏み込みすぎな所感を漏らして周囲をざわつかせた。
部署の同僚たちは心配そうに周りを見渡して今の「失言」が外に出る可能性を心配している。
いつもはどこ吹く風で空気読まない派の望海ではあったが、最近の三徹コース業務がリーダーの不用意な相槌から生まれた事を思い出して思わず口に手を当てる。
別に面倒ごとに巻き込まれるのはいつもの事でそれ込みの業務内容だが、好き好んで地獄の窯の中にダイブしたい趣味は無い。
気まずそうな同僚に一応申し訳なさそうな素振りを見せてとりあえず取り掛かるべき優先順位を考える。
まずは周辺の一般人の皆様の不安要素をまとめておく必要があるが、異能者に対する警戒感は簡単に拭えるものではないしどう接触を取るべきかな?
望海は使えそうな人間の顔を脳裏でピックアップしてちょうどこの前貸しを作った幼馴染の事を思い出す。
たまにはアイツにエスコートしてもらうのも面白いかもしれないな。
望海は憂鬱な業務の中での潤いを確保する手段を早速組みデバイスの彼の番号に電話をかけた。
その表情は恋に夢見る少女のように輝き、この先の不都合を照らす光となる予感を周囲に示していた。
