「流星の夜が繋いだ絆」か…そんなおとぎ話を信じていた頃もあったかな。
彼女の為だけに用意されているプライベートラウンジで私は戸惑いつつも話相手としての役割を果たそうとする。
その様子を見て彼女はいつものように微笑み、懐かしい記憶を話してくれた。
星空の下で夜通し夢を語り合った日のこと。
それぞれの信念について激論を交わした時間のこと。
様々な未来の展望を笑いあった時のこと。
その全てが戻れない尊き思い出となって自分の行く先を照らしているのだと彼女は語った。
映画でしか見たことが無いようなベイエリアリゾートのクラブフロアでの生活。
それを手に入れた今より当時の仲間たちと無理をして都心の部屋の家賃を折半し過ごしていた日々の事ばかりを思い出すらしい。
現実や不条理に振り回されながらも沸き立つ熱情と希望に胸躍らせて走り切った日常は何物にも代えられない彼女の精神的地盤となっているのだ。
倉庫同然の手狭な小さな事務所から始まった彼女と仲間の夢は世界的規模のコミュニティを形成するに至り、世界各地の人々の日常を担っている。
彼女が望んだ理想的ヴィジョンは今や人々にとっての現実となり、様々な願望を具現化する土壌となっていた。
「異能者が当然のように希望を抱いて生きていける世界を」。
ただひとつのその誓いはこの世の現実を塗り替え、その事実は尊き願いが皆の元に届いた証であった。
一通りの英雄譚を語り終えて彼女は私に対して所感を求める。
もちろん私は手放しで最上級の賛辞を持って彼女の物語を賛美する。
それは社交辞令ではない当然な対応だった。
望み通りの反応を受け取った彼女は私に対してひとつのお願いを出してくる。
その言葉を聞き終えた時、彼女にとって私がどういう存在なのかを思い知り愕然とした。
あからさまに顔面蒼白な私の様子を見て不自然に彼女は柔らかい微笑を浮かべる。
これまで彼女の物語がどのように現実を飲み込んできたのかを私は身をもって思い知ることとなった。
「ミスステラ・サマーフィールドか…一筋縄ではいかない難物のようね。伊達に世界的コミュニティを率いているわけではないという訳か。」
デバイスの中の報告資料に一通り目を通した望海はこれから相手取る人物が想定よりだいぶ厄介であることを認識して頭痛を覚えていた。
最近業界の大物関連のトラブルが多すぎるな。
もしかしたらウチのボスは世界的VIPの無茶ぶり御用聞き人員なのだろうか?
自分ではどうにもならない事案が回ってきてもできませんとは言えない非常事態対処セクションの辛いところだ。
しかも今回のクライアントは欧州魔導協会の実質的元締めであるマダム・サマーフィールドの実の娘である。
本人だけなら交渉の余地がかろうじてあるだろうが、魔導協会が一枚噛んでくる可能性がある時点でこれは民間企業が背負えるレベルの問題ではない。
それに「お願い」の中身もかなり国内の禁忌条項にかなり踏み込んだモノであり軽々しく応じられる事ではなかった。
当然同僚に助けを求めるも誰もが露骨に視線を逸らして相手にしてくれない。
こんな時の為の責任者なはずだがいつもの丸投げである…明らかに職務放棄ではないのか?
望海は内心愚痴りながらも対応策を検討していく。
しょうがないな…こんな時は貸しを清算して手伝わせるか。
望海はデバイスの連絡先の中から今回の生贄要因を何人か選び出し電話をかける。
運命の宣告を受ける相手には申し訳ないなと一応謝罪の意思を込めて。
