通路の先には開けた空間が広がり、聖人が十字架に磔にされた像がこちらを見下ろしていた。
聖堂と思わしきこの空間には明らかな空気の違いがあり神秘性が込められた空気が充ちている。
この空気の異質さは先程の異能空間と同質のモノか…?
悠華は自らの心理防壁を展開して辺りを伺い、真へ改めて警戒を促す。
それを受けた誠はアイコンタクトを受け取って戦闘に備えた警戒態勢に移行する。
聖堂の中は静まり返った無音の空間で、悠華は自分の心臓の鼓動が高鳴るのをより意識していた。
そして一歩、二歩と進んで行くと聖人の像の前で祈りを捧げている少女の姿が見えた。
あらゆる者への救済を願うようなその姿は聖典に記された聖女をイメージさせる。
彼女を視認した瞬間、悠華は突然の息苦しさに襲われ足取りが鉛のように重くなったように感じた。
この場所が不可侵な聖域であり、侵入者への退去を促す警告を感じさせる強制力が働いているのだ。
この場所から退避すべきという本能からの警告が脳裏に鳴り響く。
これは一時撤退が必要か…?しかし暗部の人間が待ち構えていた以上タダでは帰してくれないか。
悠華はとりあえず心理防壁を改めて組みなおし、この場の重圧に抗う。
とりあえず彼女に意思疎通を試みてから脱出なり事情聴取なりを判断するか。
悠華は真にアイコンタクトで周囲の警戒を任せると祈りを捧げる少女へ話しかけた。
「ちょっと礼拝の最中申し訳ないんだけど、ここにあなたと同じぐらいの女の子が来なかった?見るからにクールな感じの子。」
話しかけられた少女はあまりにも冷えた目で悠華の瞳を見つめ、応答する。
「なるほど…貴女が例の藤御堂のお嬢様ですか。お探しの小山内家のご令嬢はそもそもこの場に来ていませんよ。」
淡々と事実確認をしていく彼女の目はこれから処分するべき獲物の品定めをするモノに変わっている。
「先程私たちのひとりがお世話になったようですね。”フェアリー・リリック”についても説明は不要みたいですし、私とも遊んでいただけると幸いです。」
彼女が言葉を紡ぎ終えると、聖堂内の空気はより密度を増して悠華と真の意識領域を圧迫していく。
悠華は先程の二の轍を踏まないよう戦略を組み立てていく。
とりあえず彼女の”物語”が何なのかを割り出す必要があるか…
悠華は相手の脚本の内容を仮説を立てて検証していく事にする。
その様子を静かに見ていた少女は久しぶりの獲物の料理法を思いうかべ、あまりにも嗜虐的な笑顔を浮かべた。
