苦労の末に取り付けたアポイントメントは無効になってこれからの予定はぐちゃぐちゃだ。
愛美は目の前の予定表の内容がほぼ無意味になったことに呆然としている。
甘く見込んだそれなりプランで何とかなるのは物語の主人公だけだと痛感する限りだ。
…その事実は認めざるを得ない。
現実と戦うというのはいつでもハイリスク・ローリターンである。
何とも空しい事実確認を嫌々ながら許容した後、愛美はこれからのフォロープランを組み立てることにする。
とりあえず彼女の協力が得られなければ前線戦略の根本的見直しをしなくてはならない。
徒労と無駄骨がこれ以上積みあがるのは避けたい。
そう思いながら書類とデータの山と対峙しながらため息が出てしまう。
彼女の居所の候補があまりに散らばっていてどうにもならないのだ。
札幌、沖縄、北京、ニュージーランド、ロンドン、エジプト、ロサンゼルス…
質の悪い罰ゲームを背負わされているような情報の無軌道さに苛立ちも乗ってくる。
それで期限はたったの一カ月。
悪い冗談を絵に描いたような条件に笑うしか無い…これはただの追い出し案件なのでは?
どこ吹く風の上司にアイコンタクトを試みるが当の本人は眉ひとつ動かす気配は無かった。
つい先日この案件を渡された時の言葉が今も脳裏に焼き付いて離れない。
「確かこういう日程の旅行を弾丸ツアーとか言うんだったな…鉄砲玉らしくてちょうどいいじゃないか。弾丸が戻ってくることを許容してるだけ感謝してくれよ。」
さすがに殺意を隠す余裕もなく引きつった笑いでその場は対応したのだが、本人は本気で気の利いたジョークだと思っているらしく救いは無い。
今更ながら弾丸一発程度の配慮しかされない我が身の切なさを憂うが事態は変わってはくれない。
思考を切り替えて粛々と選択肢を絞っていく。
悲劇を避けることができないのが運命ならばせめて選択肢は自分で選びたい…できれば白紙委任が良いのだが。
なんとか素案を組み立てて決裁を下ろしてもらい、そのまま出発するべく愛美はオフィスを後にする。
背後の上司が何とも楽しそうな笑顔をしていることに気付かぬままに。
