これから皆が救われるかどうかは貴女の心がけ次第…それをわかっていますね?ミス・ヴィルノア。
あの時顕現した「御使い」はファリスにそう告げた。
その日から日常を輝かせていた幻想も未来を照らしていてくれた信仰心も路傍の石同然のモノとなった。
唯一無二の宝石もかすむように輝いていた偶像世界も今は現世の煤と埃にまみれて見る影もなくなっている。
「天界からの使者」をこの聖堂に迎い入れてから数日…そう僅か数日の出来事だった。
様々に、そして赤裸々に語られる天界の”現実”。
神々の派閥争いや権力闘争、下界の支配権やその他様々な利権確保闘争の日々。
そして「聖典」の意図的編纂と恣意的運用の実例等…それは今まで崇めてきた偶像の世界とはまるで別物であった。
その内容から初めて「御使い」から告げられた言葉の真意を再確認した日のこと。
そう日々の信仰心や健気な献身をさぞ慈悲深く労ってくれるだろうと信じていたところへ宣告された言葉。
耳を疑うことすら忘れるほど崇高な声色で伝えられたその言葉は絶望や失望などという語彙では表せぬ喪失感をファリスの胸に穿った。
今まで大事に積み上げた信仰心が闇色に染まり憎悪の源となるのに時間はそれほど必要としなかった。
その日の晩、ファリスは未だ整理できていない意識の中でひとつの決断を下すことにした。
そうか…結局はあなた方が考える可能性の檻の中で都合のいい人形として管理されろというわけか。
それならば私の行使できる異能と術式でその檻の中を人々の楽園に変えてみせよう。
神々がお望みの神話も捧げてあげようではないか…その上で我らの理想的な未来や日常を創り上げよう。
ファリスは幼いころ子守歌代わりに聞いていた「聖典」の中のおとぎ話を思い出し、自らが描く理想の世界づくりの設計を始めることにした。
