「”魔女の夜”の再来か…随分面倒なことになったものだな。」
分厚いレポートの束に目を通した後、フィオナは事態の詳しい報告を聞く気力も無く天を仰いだ。
あまりに投げやりな対応をされた副官の彼はどういった対応をしていいのかわからず立ち尽くしている。
そのいたたまれない空気を察したフィオナは退室の許可を出して、彼をこの場の責務から解放した。
執務室から逃げるように姿を消した後姿を見て申し訳なさを感じため息をつく。
正直これほどの規模の儀式術式が稼働していることを把握できていなかったのは怠慢で済まされることではなかった。
これはこの地だけではなく魔術文化圏、いや欧州全体の日常が脅かされる事態に発展する危機的状況だ。
”魔女の夜”…かつて先天的に異能を有していた偉人や英雄の資質を取り込ませ、人々を平等に「特別な存在」にしようと試みた魔導師がいた。
その結果発現した異能に適応できずに魔獣となった者や異能を暴発させ甚大な被害を出す者が数えきれないほど出たのである。
その事態を収束させるため、当時の魔導師協会は禁術を行使して「被害者」達を封鎖区域に封印し魔導師本人も処刑台へ送り組織的隠蔽を図ったのだ。
その事案の実務者は実態の秘匿の為各地の閑職に飛ばされてその秘密を墓まで持っていったとされている。
ここまでの情報すら本来はトップシークレットの機密情報だが、今ここでその機密が共有された意味はひとつだろう。
今度はお前たちがその役目を負い殉職しろ、だ。
フィオナはその暗黙の了解を飲むことを覚悟して今までの日常に思いを馳せる。
これまでの人生を穏やかに送ってこれたことは本当に幸せなことだった…これからは皆の為にこれからの人生を捧げよう。
フィオナはその決意を改めて自覚した後、引き継ぎ書類を仕上げていく。
自分がいなくなった後も日常を受け継いだ者が希望を紡いでいけるように。
