あまりにも冷え切った部屋の中、「対談」は唐突に幕を閉じた。
最早興味が無くなったことを隠しもせず、彼女はこちらを一瞥した後視線を手元の本へ戻した。
あまりにもあっけない幕引きに対して男たちは動揺を隠せずにいる。
今回の失態に対して謝罪を受け入れてもらえなければ自分たちに帰る場所は無い。
闇夜の中を日常とする者達は様々なコネクションの保護の元で人生を成り立たせている。
その「セーフティネット」を維持している顔役のメンツを潰すことは自分の市民権を自ら投げ捨てる事と同義だ。
目の前の儚げな印象の少女が今回の事案を仕切っていた責任者だということは未だに信じられないが、暗部の人間の素性が見た目の印象と異なるなど日常茶飯事である。
何とか取り付く場所が無いものか?
男たちは目の前の少女にせめて最低限の陳情を試みようと口を開こうとして息を詰まらせる。
見目麗しき少女の琥珀色の瞳に物憂げな光が宿っているように見えた…その瞬間。
男たちは糸が切れたように意識を失い、物言わぬ石像のように硬直する。
その様子に興味も無く少女は鬱陶しそうにため息をつき、部下を呼んで男たちをつまみ出した。
…体が急に鉛のように重くなり景色が歪んで気を失った?わけのわからない重圧で意識が飛んだ?
部下たちの要領を得ない報告を聞いて若頭である彼は言葉を失った。
確かに礼儀を欠いて境界線を踏み越えたのはこちら側ではあった。
それでも形式上で非礼を詫びてお互いこれからもよろしくという流れだった筈。
それが大の男たちが雁首揃えて門前払いとは…
これではこれからの日常にも支障が出るのは明らかだ。
そして暗部の名の知れた人間だとは言え、年端もいかない少女相手に子供のお使いレベルの扱いを受けたという事態は部下と仲良く路頭に迷う原因になるのは十分な失態だ。
彼は湧き上がる焦燥感と絶望的未来予測に震え上がりつつも、冷静に今の状況の解決策を模索する。
これは俺自身が直接話をつけないといけないか。
彼は震える手でなんとか通信デバイスの通話機能を立ち上げて通話アイコンをタップする。
ワンコールで繋がった後、努めて慎重に言葉を選んで彼は話を始める。
「今少し時間をいただけるかな?ミス・フジノミヤ。これからのお互いの未来について話し合えたら幸いだ。」
その一瞬後に聞こえた応答の言葉。
彼は自分が冥府の神にアポイントメントを取ってしまったことをスムーズに自覚することとなった。
