”神話は他者の承認と自認が揃うことで初めて奇跡を起こす力を得る”、か。
…専門外の人間が建てたにしては面白い仮説だな。実に興味深い。
佐奈は適当に手に取った論文が自分好みの論理建てで編まれていて大層満足感を得ていた。
異能や神性を宿した人間の持つ能力を研究する機密機関に配属されて数年。
この研究室に踏み込んだ時は何を求められていくのか不安でしょうがなかったものだが、研究を始めてみればその不安は湧き上がる知的欲求と未知の神秘がもたらす興奮で消し飛んでいた。
今では他の研究員からも一目置かれるほどの成果を出し主任にもなっている。
そして定期的に論文収集をして未だ衰えぬ知識や神秘への渇望を満たすのが佐奈の一番のリフレッシュ方法だ。
今となってはソレは日常の英気を養うためのライフワークでもある…欠かせば生命維持に支障が出るレベルである。
なので日頃から面白い論旨や切り口の論文が無いかアンテナを高くしているのが日課なのだ。
それでも大体は定説の焼き直しや流行の議題の調理の仕方ばかり読む羽目になって辟易することもある。
しかしだからこそ今回の様な稀に見つかる「宝物」との遭遇は別格の嬉しさだ。
すぐにその論文の著者にアポイントメントを取って一昼夜論議したい衝動に駆られる。
…が、初対面の相手を挨拶抜きでベッドに押し倒すような礼儀を欠いたやり方はマナー違反。当然だ。
ふむ、そうだなまずこの猛る熱い思いを知ってもらうのが最初にやるべきだろう。
何事も第一印象が大事なモノだ。
佐奈はそう考えをまとめると思いの丈を詰め込んだ恋文をしたためるべくペンを走らせ始めた。
