どう頑張っても「世界の外」には行けないよ…それは君もわかっているはずだ。そうだろう?桜井君。
最早諦めというだけではなく私に対しての失望すらその瞳には浮かんでおり、返す言葉が浮かんでこなかった。
結奈は彼から突き付けられた言葉に対して言葉を詰まらせてまともな意思疎通ができる状態ではない。
先日起きた天界からの侵略を目の当たりにして彼の中の「楽園」は崩れてしまったのだろうか?
天国も浄土もこの世には無いと教わった。
だからこそこの魔導の道に全てを捧げて研鑽に没入してきた…もっと崇高な誇りある人生の答えが見つかる事を信じていた。
しかしその日常が無価値であり無意味なモノだと思い知らされた要因が超自然の存在だなどとはあまりにも皮肉ではないのか。
天界から侵攻してきた「天使」たちは神の奇跡さながらの裁きの炎でこの土地一帯の日常を消し炭にした。
私たちが自前の魔術で対抗するも神聖なその概念体には無力であったのだ。
皆は信じるものが崩されたショックで逃げまどい、神に祈りを捧げるものは断罪の炎で焼き尽くされていった。
その場で命からがら生き残った彼はその様子を淡々と語り終える。
その瞳にかつて希望を共に語り合った澄んだ光は消え失せていて、現実に蝕まれ絶望に淀んだ暗い闇が満たされていた。
彼は一息ついて何の反応を見せない結奈の様子を確認すると組織所属の証である徽章を床に投げ捨てた。
結奈に興味を失った彼は身を翻してこの場を立ち去ろうとしている。
結奈は彼をこの場に引き留める為の言葉を必死に探したが何も見つからない…見つかりようもない。
魔導の道を捨ててしまえばこの世のことは何もわからない。
それほどの深度で研鑽を続けていたのは彼とて同じことなのに。
走馬灯をゆっくり見直す時間すら無いこの決別の刹那の時間は結奈の意識をあぶり続ける。
今までもどれほどの試練を背負っても共に乗り越えてきた彼の意識にはずっと疑念があったのだろうか。
…どうして私にその苦しみを打ち明けてくれなかったのか。
今はもうそれを問うことのできる状況ではない。
救いの手を差し伸べるタイミングはもうすでに逸した後なのだ。
結奈が制止の言葉をいつまでも紡ぐ気配が無いのを改めて確認した彼はその場を無言で立ち去った。
捨てセリフを残さないことがせめてもの慈悲だと信じ込んだままで。
