かつての蒼い日記帳37-空虚の語り手と亡命した天使-

これはその後の密な経過観察が必要ね…。

要は届けられた解析結果のレポートを読み終えると自分のデスクにそれを置き溜息をついた。

”人間の「天使化」。”

魔術に対して先天的に高い素養を持つ者やあまりにも強い異能を発現した際に起こりうるとされた現象だ。

本人の意識は人間のモノを逸脱したモノとなり、悪意や敵意に対して見境なく攻撃衝動を生じさせてしまうという。

その破壊行動や戦闘能力は並の魔術師や異能者が対処できるレベルではない。

それなりの規模の都市機能を丸ごと壊滅させられるその力は正に神話の中で語られる裁きの火そのものであるらしい。

そして背中に発現した輝く翼。

あまりにも現実離れした光景の描写はレポートの内容が聖典の二次創作かとも疑われるほどだ。

そしてよく調べられてはいるものの現場への実務的対処提案がなっていないこのレポートがどのような環境でまとめられたものなのか想像するだけで頭が痛い。

この研究室のバックヤードに勝手に作ったワインセラーに閉じこもりたくなる。

要はこの事案の担当責任者に任じられた際に無茶ぶりをされる交換条件として自分のプライベートスペースの確保を要求していた。

さっさとこの事案を片付けて研究所の予算を横流しして確保した世界中の銘酒たちと戯れたいのである。

しかしいざ報告を受けてみれば自分の今までの研究が児戯に等しいと思わされるほどのイレギュラーの連発。

日常的な現実の崩壊に加えて因果事象の常識を塗り替えるようなレベルの異変対処に追われる日々だ。

こういう時姉さんならどうしただろう?

要は先代チーフであった実の姉がこの研究所の実務を取り仕切っていた時の事を思い出す。

得意のプレゼン術で見事に纏めてそのリーダーシップで乗り切ってしまうのか?

それとも持ち前のカリスマと器量で理想論を容易く実用化してしまうのだろうか?

どちらも自分にはできそうにも無い事だ。

それでも今は自分が責任を持ってこの事案に対処しなければならない…そこから逃げることはできないのだ。

思わず天を仰いだ要の視界に入ったのは自らが積み立てた実績を讃える額装された数々の賞状と学会から賛美を受けた際に撮った記念写真。

そこに写っている自分はあまりの緊張で硬い表情をしていながらも誇らしげにしていた。

その懐かしい記憶を眺めて要は微笑ましい気持ちを抱きしめ、濃い目に淹れたコーヒーに口をつける。

口の中にあの日と同じ馴染んだ苦みが優しく広がっていった。

  • 0
  • 0
  • 0

しなちー

アニメやライトノベルを1990年代から没頭している古参オタクです。 様々な作品から感じた事や個人的創作論、私なりの世界観を舞台としたショートストーリーなどを発信していきたいと思います! よろしくお願いします!

作者のページを見る

寄付について

「novalue」は、‟一人ひとりが自分らしく働ける社会”の実現を目指す、
就労継続支援B型事業所manabyCREATORSが運営するWebメディアです。

当メディアの運営は、活動に賛同してくださる寄付者様の協賛によって成り立っており、
広告記事の掲載先をお探しの企業様や寄付者様を随時、募集しております。

寄付についてのご案内