かつての蒼い日記帳38-努力に対する敬意と不断の決意への共感について-   

「”現実的判断”というものはいとも簡単に人間の意識を縛り上げる。それは個人の可能性の消失にも繋がるのだ。」

このプロジェクトの前任者はこの信念を元に献身を続け、そして倒れることとなった。

彼自身が信奉していた”理想論”によって彼は責任者としてそのポストを追われる事となる。

様々な現実に対していつも融通を利かせてくれた人格者であった彼。

その人望とともに背負った責務は周りの人間が想像をできない程の重圧だったと思うよ。

…あまりにも他人事のように説明してくれた先輩に対して早紀は不穏な空気を感じたが、踏み込むリスクが割に合わないことを思い出かかった言葉を飲み込んだ。

研究室内で今ささやかに開催されている私の歓迎会はその前任者の話に信憑性が感じられないほど和やかであり異質な空気を満たしている。

「自分の理想と信念に最後まで殉じられたのだから彼も心置きなく療養に専念できるだろうよ」

そんな所感で締められた前任の責任者の話題が終わり、新体制の発表となって研究室のメンバーは新たな日々への希望を祝福し乾杯をする。

「新出発」の象徴であるこの歓迎会は私の為ではなく禊が済んだことを示すセレモニーなのだろう。

早紀はそれを薄々感じ取り苦々しい想いで周りの歓迎ムードに対応していく。

”これからこの誇りある研究室の一員として重責を担う自覚を持ち、この身を捧げます!”みたいな所信表明を求められるのではないかと内心ひやひやしていたが、そんな事も無さそうだ。

早紀はこれから起こるだろう要望と事案対処の数々を想定して憂鬱な気持ちになる。

もし不備や不都合を片付けられずにいれば先任の彼のように「療養」を進められることになる。

その先の人生は推して知るべしだろう…しかし。

早紀は無数に湧いてくる不安要因を数えるのを一旦やめて、目の前の不都合要因だけを整理しようと試みる。

手元のノンアルコールカクテルがそれを助けてくれるのを願い早紀はそのグラスを傾けた。

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しなちー

アニメやライトノベルを1990年代から没頭している古参オタクです。 様々な作品から感じた事や個人的創作論、私なりの世界観を舞台としたショートストーリーなどを発信していきたいと思います! よろしくお願いします!

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