かつての蒼い日記帳41-論理的夢想と衝動的正論-

その仮説は合理的思考などという綺麗な言葉で表現できるものではなかった。

この世の公正を司る力を持つ絶対的調停者でも全知全能の権能を持つ善の象徴でもない彼女が掲げた「正義論」は常人には到底理解できない代物。

あまりに尊大すぎたその救済への道のりは現実感を喪失した論理破綻そのものであった。

しかし彼女はその持論により様々な形の救済を具現化し、その在り様は稀代のレアケースとして語り継がれることとなる。

主に未開の地の探索手法やその為の用具開発の設計理論、その原型として。

「…それで霜月チーフはこの説に対してどういう知見を基に読み解くべきだと考えます?是非貴女の私見を伺いたい。」

異能対処事案の有効ケースを研究するこの研究室にこの事案が持ち込まれるのは必然だった。

荒唐無稽とも言える正義感と自責意識によって練り上げられたこの「事案対策マニュアル」。

様々な現実上の不都合に対しての様々な最適解が事細かに記載されており、その具体性は現場特有の生臭い空気さえ感じさせるモノだ。

なのでその熱に浮かされた研究室のメンバーは激論を交わしてこの「マニュアル」の実用的運用方法を討論しているのである。

寒々しい色調の研究室の中でその討論にこもる熱量だけが存在感を持っている。

この場においてはそのひとつの現実がただひとつの正しさだ。

それを少し引いた場所で聞いていた霜月はわざわざ口を挟むことは無いと思っていたが、突然話を振られて少々驚いた。

この様子ならある程度の仮説や結論が出てから報告されるものだと考えていたがこの様子だと感情論の水かけ合戦になって建設的議論にはならないか。

霜月はそう判断すると現時点での私見を話すことにした。

「そうだね…”現行言語が気に入らなかったから新たな言語体系によるオーバーテクノロジーで無双してやった”が著者の意図するところだったのではないかな?真面目にゼロから世界を作り上げて神話を練り上げた敬虔な殉教者と捉えれば理解できなくはないのではないか。」

おおぅ…という感嘆の声を漏らした研究室のメンバーたちは思いもよらぬガチめの考察を考察を持て余して目を見合わせた。

その様子を呆れた様子で受け止めた霜月はメンバーに対して緩んだ空気に釘を刺す。

「それより君たちに頼んでおいた”聖典”の解読と基礎運用体系はできているのかな?期日はとうに過ぎているはずだが。」

その言葉に対しておどけた様子で口笛を吹いたり肩をすくめるポーズで誤魔化すメンバー達。

最早怒りすら湧いてこないそのモチベーションの低さに苦言を呈する気も起きない霜月であったが、淡々と事実だけは通告していく事にする。

「一応言っておくが、この区画は私の権限で封鎖してある。計画通りの進捗が確認できるまで帰宅できるとは思わないことだ。観念しておくことだな。」

氷点下の視線をメンバーたちそれぞれの目に刺した後、霜月はチーフ席に戻っていく。

再度目を見合わせた研究室のメンバー達もいつも通りの流れに対して安心さえ感じて業務に戻っていく。

運命共同体である彼らの未来は共有されることで最善のモノになる。

誰もがそれを信じていたに違いなかった。

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しなちー

アニメやライトノベルを1990年代から没頭している古参オタクです。 様々な作品から感じた事や個人的創作論、私なりの世界観を舞台としたショートストーリーなどを発信していきたいと思います! よろしくお願いします!

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