…ニーベルング女史。最近の禁書管理はだいぶ独断での例外処置が過ぎているように感じられるが、どういうことだね?
寒さも緩んで春の訪れを感じる今日この頃。
久々に旧友とお茶会でもしようと空想に浸っていた時に呼び出されておりサクラの機嫌はかなり傾いていた。
なので不躾な対応には喧嘩を買うスタイルでいこうとたった今決めたところだ。
それが領地の実質的権限を握る貴族筋の言葉でも変わらない。
「お言葉ですが私の判断による蔵書管理は厳しい審査の元で領内の事案対処に役立つものだけを許可しているモノです。私が独断で蔵書の私物化をしているような物言いはやめてもらえませんか?」
サクラの理路整然とした切り返しに対して貴族筋の男は多少怯んだものの、それでも正しさは自分にありとの理組みで反論する。
「女史…貴女の司書としての才覚によってこの領内の不都合や不満分子関連の問題解決がスムーズにいっている事は誰も異論は無い。そしてそれによる実益をこの地の者たちに還元してしてくれていること、感謝しきれないモノだ。」
男は一度事実ベースの話を確認して言葉を切り、自分に敵対する意思がないことを示した。
それでもサクラの心のガードが下がることもない。
これは自分の現実の線引きの場所を決める権利をすり合わせておく交渉の始まりだ。
ここで決められたことで自分の可能性やこれから持てる手札の量や質も段違いになる。
それは双方が理解していることだ。
解釈次第では相手の生殺与奪の権すら握ることのできる「話し合い」なのである。
どこからともなく一呼吸置いた音が聞こえて男は言葉を繋いでいく。
「それでも貴女の管理する禁書がもたらす異能や技術、それに関わる者たちが生み出す利益や権益はたやすく人々の日常を塗り替えてしまうものだ。このままでは誰もが水をワインに変えられる奇跡を体現できるのが普通となる。そうなった場合貴女に関われない者やその知識、技術を知ることができない者の安寧が保障できなくなる…それは把握していてほしい。いいかね?」
男の理論構築は人の善性を基本に積み重ねられており、表向きの公平性と理屈としての正しさを説いていた。
もちろんそれが全て本心ではないだろう。
そんな綺麗な理想論でこの世の平穏が維持できるわけもない。
無論その真意は「自分たちにもその利益体制に一枚噛ませろ」なのは明白である。
サクラはその下心見え見えの二枚舌に強烈な忌避感を覚え、眉をひそめそうになったがここで感情論による否定をするのは後々の武力行使の建前を与える下策だろうと考え務めて柔和な笑顔を返した。
男は自分の建前を形の上だけでも許容してもらったことに一安心し、これからの関わり合いについての提案を始める。
目の前の柔和な笑顔をした死神の鎌は研ぎ終わっていることを知る由もないままに。
