穢れた大地を一掃する清めの炎…正に今この世界に必要なモノだとは思わないかね?
静まり返ったこの施設のコントロールルームに男の独り言が響いていた。
衛星軌道レーザーユニットによる軍事クーデター計画をキャッチできたのはつい先日の事。
そして制圧に時間がそれほどかからなかった事は不幸中の幸いだった。
しかしこの男の余裕はいったいどこから来ている?
玲子はこの施設の責任者と思われる目の前の男に対して得体のしれない不気味さを感じていた。
現状衛星レーザーユニットの管理システムはこちらが押さえていて男の頭には私の部下たちによるいくつもの銃口が突き付けられている。
もはや男の取るべき行動は私への無様な命乞いだけであるはずだ。
それでも男は映画の黒幕気取りの余裕ある態度を崩さない…その白々しさはとっくに許容できる段階を超えている。
そもそもこの施設の物理的破壊が承認されなかった時点でおかしいとは思っていた。
「能力者の生体反応をマーキングすることにより精密で膨大な熱量による広域殲滅が可能な画期的兵器」。
それが組織の上層部にプレゼンされた売り文句だったらしい。
それを聞くほうも聞くほうだと呆れたものだが、そんな人命軽視甚だしいアピールポイントを挙げて売りこむ死の商人が堂々と出入りしていた事には驚いたものだ。
確かに軍事的抑止力の無い条件の平穏などこの世にも存在しないだろうが、軽々しく破滅をもたらす力は諸刃の剣。
容易く人の心を握りつぶす力は自らの破滅のスイッチとなる。
だからこそ組織としてもそういった行き過ぎた力を警戒していた筈なのだ。
それなのにどうして今回は誰からも異議が出なかったのだろうか?
スポンサーには抗えないとかで説得されたのか。
…どちらにしろ受け入れがたい事に変わりはない。
玲子はもやもやした意識を一旦整理した後、現状の処置を改めて検討する。
やはり衛星レーザーユニットとその管理施設であるこの場所は破壊しておくべきだろう。
そしてこれからの治安維持の問題について上層部へ訴えかける必要があるな。
そこまでを考えた後に男の視線が気味悪く自分に絡みついていることに気づいた。
いくつもの銃口が突き付けられていながらもそれが祝福されるべき自分への試練だと思っているのか?
それとも救世主のごとく復活できると思っているのか。
何らかの確信を得ているかのようなその余裕の笑みは尚も剝がれていない。
死んだ後も意識及び精神干渉能力者によって情報を引き出す予定である為この場での交渉の余地は無い。
その事実が分かっていない筈は無いのだが…
息詰まるこの場の空気が密度を増して行く中、制圧部隊の面々は男の余裕な態度に疑心を煽られ「処分許可」をアイコンタクトで私に求めている。
しょうがない…報告書の書き方が多少面倒になるが2,3行の改変でなんとか済ますことができるだろう。
玲子はそう考えて右手を振り上げ指示を出そうとして、自らの視界にノイズが走った事を知覚する。
その数瞬後玲子の網膜に映し出されたのはこの現実世界という地獄でもこの世ならざる楽園でも無かった。
