電気料金を滞納していたせいで大家から電気を止められた。
コンセントにつないでも扇風機は動かない。クーラーも動かない。団扇だけでは今年の猛暑をしのぐ事は出来ない。
「暑い……」
汗が吹き出す。具合が悪くなってきた。目の前がぐらりと揺れる。俺はそのまま床の上に倒れた。
*
暑さで俺は目を覚ました。相変わらず暑さは感じていたが、それだけではない、体に何やら不思議な力がみなぎっているのを感じた。今なら何でもできそうな気がしてきたので、俺は扇風機に向かって念じ始めた。他人が見たら暑さのせいでおかしくなったのかと思うだろう。だが俺は正気だ。
「動け……、動け……」
冷静に考えたら電気が通じてないので動くはずもない。しかし俺は扇風機をじっと見つめて念じる。
念じてから一分後、不思議なことに扇風機の羽が徐々に動いてくる。三分もたたないうちに扇風機は普段通りに動き出す。”念ずれば通ず”とはよく言ったものだ。
「すごい、まるで超能力者だ……」
念じるのをやめると扇風機は止まった。涼しくするためには念力をずっと使わなければいけないのか。
「エアコンは動かせるかな?」
扇風機の風で涼しくなった俺は、次にじっとエアコンを見つめて動け動けと気持ちを込める。扇風機より時間がかかったが、五分で涼しい風がエアコンから吹いてきた。
「次は冷蔵庫を動かしてみよう。中に入っている食品が心配だな」
一度念力で動かしても、食材を冷やすためにはずっと動かしていなければならない。これは大変だ。
俺はじっと動かずに冷蔵庫に意識を集中させて念力で動かし続ける。意識を集中させているせいか体が熱い。額に汗がにじむ。
俺はいったん水を飲む。水道が止められていなかったのが不幸中の幸いだ。
「よし、リベンジだ……」
気持ちを切り替えて冷蔵庫に再挑戦する。十分経過。汗がとめどなく流れる。二十分経過。意識が朦朧としてくる。一時間経過……いや、まだ三十分しか経っていない。そのうち俺は時間を気にするのはやめて念じることに集中した。
*
どれくらい経っただろうか。辺りは暗い。もう夜になったのか。全く暑さを感じない。涼しい。さっきまでの暑さが噓のようだ。体が宙に浮かんでいるみたいだ。
俺は暗闇の中で心安らかな気持ちになっていた。
あとがき
村上鬼城の俳句「念力のゆるめば死ぬる大暑かな」に着想を得て、この物語を作りました。皆さんはエアコンやクーラーを使って上手に暑さをしのいでくださいね。
