男はテレビの画面にくぎ付けになった。テレビでは亀山ぶどう研究所にて新種のぶどう”ブラックタートル”が誕生したとのニュースが放映されている。画面の中では女性リポーターが所長の亀山氏にインタビューをしている。
「ついに出来ましたよ。これが新品種”ブラックタートル”です」と、所長は木に鈴なりになっているぶどうの果実をリポーターに指し示す。
「うわぁー。粒がぎっしり詰まっていて、まるで亀の甲羅の模様みたいです。大粒で美味しそうですねー。普通のぶどうとどのように違うんですか?」
「前もって亀の死骸を堆肥化させて土に混ぜ込みました。その土で育てたぶどうなんです。昔から、”鶴は千年、亀は万年”といって亀は長寿の象徴ですからね。おかげで元気に育ってくれましたよ」
「へぇー、長生きできそうなぶどうですねー」と、女性リポーターは感心している。
「抗酸化作用を促すポリフェノールも他のぶどうに比べると多いんです。一粒召し上がってみてください」
所長に促されてリポーターはブラックタートルを一粒口に入れる。
「わぁ甘ーい!これは何個でも食べられちゃいますねー」
「そうでしょう。ただ、食べ過ぎは体に毒でして……。一度に一房全部食べてしまうと、体が亀のように遅くなってしまうんですよ」
「えぇっ、大丈夫なんですか!?」
「食べ過ぎなければ問題はありません。一日に三個が適量ですね」
男はテレビの電源を消してほくそ笑んだ。
「これは高く売れるぜ……。大儲け間違いなしだ。いつだったか、夏場は猛暑のせいでとんだヘマをやらかしたが、今回は絶対に成果を上げてやる!」
そう言うと男は早速盗みに入る準備に取り掛かった。
*
後日、亀山ぶどう研究所のビニールハウスの前に男がやってきた。男はセキュリティをかいくぐり、ブラックタートルの木の前まで来た。
「これがブラックタートルか……。どれ、試しに一つ食べてみるか」そう言って男はブラックタートルの房を木からもぎ取り、一粒口に放り込む。
「美味い!今までに味わったことがない美味さだ!どれ、もう一つ……」
男は次々にブラックタートルを口へ放り込んでいく。
「うーん、美味いなぁー」
その時、パトカーのサイレンがけたたましく鳴り響いた。その音にも気づかずに男はブラックタートルを一心不乱に食べ続ける。警官たちがビニールハウスの中に入ってきても気づいていない。
「あぁー、美味かったぁ。……えっ?」
ブラックタートルを一房食べ終えた男は、ようやく自分の周りに警官がいることに気が付いた。
「げえーっ!逃げないと……!」
慌てて走る男だが、ブラックタートルの食べ過ぎで体の動きが遅くなっているため、警官たちにすぐに追いつかれてしまう。
「しまった!調子に乗って食べ過ぎた……」
「確保!」
男はあえなくお縄となった。
あとがき
川端茅舎の俳句「亀甲の粒ぎつしりと黒葡萄」に着想を得て、この物語を作りました。”ブラックタートル”は実在しませんが、ぶどうはポリフェノールがたっぷり含まれる健康に良い果物です。ただし、ぶどうは糖質が高いので、食べ過ぎに気をつけましょう。
