俳句で作る物語⑨ 「カメレオンウール」

季節は十一月。もうすぐ妻の真由まゆの誕生日だ。真由へのプレゼントは付き合っていた頃から毎年出来合いの物をプレゼントしているが、夫婦になって初めての誕生日、自分で作ったものをプレゼントしたい。
「というわけなんだ。編み物を教えてほしい。いや、教えてくださいお願いします」
週末、俺は朝早く実家に帰省した。実家住まいの妹の愛美香あみかに編み物を教えてもらうことにした。
「何よ、まだ朝の七時じゃん…。というか、慶人けいと兄ちゃん編み物やった事あるっけ?」
「無いけど、手先は器用だし大丈夫じゃないかな」
「うーん、初心者でもかぎ針ならマフラーは編めるけど……。コースターならマフラーより簡単に作れるよ」
「マフラーを真由にプレゼントしたいんだよ」
「しょうがないなぁ……。はい、これ」
愛美香はそう言うと白い毛糸玉を渡してきた。
「何これ?ただの毛糸玉じゃん」
「ただの毛糸玉じゃないよ、”カメレオンウール”っていうの。これを空に向かって投げると、その色になって落ちてくるんだよ。今日は久しぶりの快晴だから、きれいな空色の毛糸玉ができるよ」
どういう原理か分からなかったが、俺は外に出てそのカメレオンウールとやらを澄み渡る青空に向かって投げてみた。風は吹いていない。毛糸玉は空高く上がり、空中で一瞬止まる。そして毛糸玉はものすごい勢いで落ちてくる。
「兄ちゃんナイスキャッチ!」
手の中の毛糸玉を見ると、鮮やかな空色になっていた。不思議なこともあるもんだ。

「それでは、編み方講座を始めます」
その日の午前中、俺は愛美香から編み物の講座を受けた。
「編み方にもいろいろあるんだな」
「この毛糸の太さで長編みなら一日もあればすぐに出来上がるよ」
そんなに早くできるのか。俺はさっそくマフラー編みに取り掛かった。そばで愛美香が見ている。
「慶人兄ちゃんが毛糸を編んでる……ふふっ」
「……何笑ってんだよ」
おのれ、こうなったら意地でもマフラーを完成させてやる。見ていろ、愛美香……。待っていてくれ、真由……。あっ、編むところ間違えた……。

数日後、真由の誕生日がやってきた。マフラーは愛美香の言った通り一日で出来上がり、日暮れ前には完成した。俺って編み物の才能があるんじゃないだろうか。
「誕生日おめでとう、真由。俺からのプレゼントだ」
その日の夜、俺はマフラーを真由に手渡す。少し不格好だが気持ちのたっぷりこもっているマフラーは、開けられるのを包み紙の中で待っている。
「わぁ、自分で編んだの?すごい!」
包み紙を開けた真由は驚いている。その光景を見て俺も驚いた。
「あれぇ!?マフラーが真っ黒になってる!なんで!?」
「あー、カメレオンウールを使ったでしょ。今は夜だから黒くなっちゃったんだよ。でもありがとう、嬉しいよ」
「なんだ、毛糸玉のこと知ってたのか」
真由は嬉しそうにマフラーを首元に巻く。
「うん、温かい。ほら見て、ところどころ星がキラキラしてる」
「本当だ……。今夜は満天の星空だもんな」
「素敵なプレゼントをありがとう」

あとがき
久保田万太郎の俳句「久方の空色の毛絲けいと編んでをり」に着想を得て、この物語を作りました。カメレオンウールは実際には存在しませんが、もしも空の色によって色が変わる毛糸玉があれば素敵ですね。

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陽狩

陽狩(ようしゅ)と申します。俳句に関する記事などを書きます。俳句に少しでも興味を持ってもらえると嬉しいです。よろしくお願いします。

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